第16話

悪魔くんに誤解されてしまいました
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2020/09/27 04:00
咄嗟に脳裏をよぎる、悪魔くんの顔。

江本くんに抱きしめられているところを、悪魔くんには見られたくないっていう気持ちが大きくなって……
木下あまね
木下あまね
江本くん……、
身をよじりながら、江本くんの腕から抜け出した。
江本くんが下唇を噛み締めるのを目で追うと同時に、江本くんの後ろに見えた人影に呼吸が止まるかと思った。
木下あまね
木下あまね
……っ、悪魔くん!?
江本 夏樹
江本 夏樹
……悪魔?
私の声につられて、江本くんが振り返る。

……よりによって今、1番見られたくないと願ったばかりだった悪魔くんが、私と江本くんを少し離れた場所から見ていた。
木下あまね
木下あまね
ま、……違う、今のは
無言のままクルッと私たちに背を向けて、歩いていってしまう悪魔くんに、私は咄嗟に一歩踏み出す。

誤解、されたくない。
……悪魔くんにだけはどうしても。

───だけど、
江本 夏樹
江本 夏樹
行くな
木下あまね
木下あまね
江本くん、ごめん
……行かせて
私の手首を掴んで引き止める江本くんに、胸が痛む。

……江本くんを救ってあげたいなんて思いながら、結局は自分のことばかりな自分が不甲斐ない。
江本 夏樹
江本 夏樹
アイツじゃなくて俺を選べ
江本 夏樹
江本 夏樹
俺のこと好きに、
木下あまね
木下あまね
私だって……!!
誰でも好きになるわけじゃないよ
木下あまね
木下あまね
江本くんは私を
天使か何かと勘違いしてる
江本 夏樹
江本 夏樹
……っ、
木下あまね
木下あまね
苦手だなって思う人、
怖いなって感じる人、
私にだってもちろんいる
木下あまね
木下あまね
嫌だなって思うこと沢山あるし、
笑えないくらい落ち込む日もあるし、
声を出して泣きたい日もある
木下あまね
木下あまね
だけど、普段笑ってる分
落ち込んだり悲しかったり……
そういう時はみんなが気付いてくれる
江本 夏樹
江本 夏樹
何だよ、それ……
木下あまね
木下あまね
江本くんみたいに、いつも
ポーカーフェイスじゃ泣きたい時に
誰も気づいてあげられないよ
木下あまね
木下あまね
色んな感情出していこうよ
そしたらみんな江本くんのこと
もっと知りたいって思うはずだから
江本 夏樹
江本 夏樹
……っ、
私の手首を握りしめる江本くんの手に、私は空いている反対側の手をそっと重ねる。
木下あまね
木下あまね
それに私、もう好きだよ?
江本くんのこと
江本 夏樹
江本 夏樹
は……?
木下あまね
木下あまね
だって、友達でしょ?
その瞬間、江本くんの手から力が抜けた。

スルッと離された私の手は、そのままぶらりと重力のままに下に落ちていく。
江本 夏樹
江本 夏樹
俺が言ってんのは……
その好きじゃねぇっての
面食らった顔で私を見つめたあと、いつものように呆れた顔をした江本くん。
江本 夏樹
江本 夏樹
もう行け
木下あまね
木下あまね
え……
江本 夏樹
江本 夏樹
追いかけるんだろ、あの悪魔
木下あまね
木下あまね
あっ、そうだ
……悪魔くん
もうすっかり見えなくなってしまった悪魔くん。

もう一度、江本くんに「行けよ」と背中を押されて、気づいた時には走り出していた。
***

───階段の踊り場
木下あまね
木下あまね
悪魔くん……!
待って、
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
……なんだよ
勢いだけで追いかけて来たのはいいけれど、 何を言えばいいんだろう。
木下あまね
木下あまね
あのね、さっきのことだけど
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
さっき?
木下あまね
木下あまね
あの……江本くんと、
階段の踊り場に立っている私を、階段の3段目から見下ろす悪魔くんはの瞳は冷たい。
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
あー、自販機の前で
抱き合ってたやつ?
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
あんなとこでイチャつくな
おかげでジュース買いそびれた
木下あまね
木下あまね
イチャついてたわけじゃ……、
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
心配すんなよ
誰にも言わねぇし
そう言って再び階段を登り始めた悪魔くんに、ズキッと胸に何かが刺さる。
木下あまね
木下あまね
悪魔くんにだけは
誤解されたくないから
追いかけて来たのに……
そんな言い方、酷いよ。
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
…………
階段を昇る悪魔くんの足が止まる。
私を振り向く気配に、またあの冷たい瞳を見るのが怖くて身構えた。
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
……別に俺たち
付き合ってるわけじゃねぇし
木下あまね
木下あまね
えっ、
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
必死に追いかけて来なくても
そもそも、興味ねぇから
木下あまね
木下あまね
……っ、
それだけ言って振り返ることなく階段を昇って行く悪魔くんに、頬をツーッと温かい何かが伝う。

……少し、自惚れていたのかもしれない。

ちょっとだけ、仲良くなったつもりでいた。
もしかしたら悪魔くんもそれなりに私に心を開いてくれているのかもしれないって。
木下あまね
木下あまね
何これ、すごい苦しい……っ、
泣くな、泣くな、と言い聞かせるほど、どんどん溢れていく涙は自分じゃもう制御不能。

踊り場の壁にもたれて、嗚咽を殺しながら泣くのがこんなに苦しいなんて知らなかった。
木下 伊織
木下 伊織
あれ、あまね?
今ちょうど教室に……って、
木下 伊織
木下 伊織
どうした……?
木下 伊織
木下 伊織
何があったの?
赤澤と喧嘩でもした?
木下あまね
木下あまね
お、お兄……ちゃ、
タイミング悪く階段を昇ってきたお兄ちゃんに泣いているところを見られても、涙は止まらない。

”違う”と首を振るだけで精一杯。
木下 伊織
木下 伊織
泣かないで、あまね
木下あまね
木下あまね
……っ
優しく私の頭を撫でてくれるお兄ちゃんの手は、昔からずっと変わらない。
木下 伊織
木下 伊織
俺のあまね泣かせるなんて
誰だろうとただじゃおかねぇ💢
私、自分でもびっくりするくらい、悪魔くんの言葉にショックを受けてる。

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