咄嗟に脳裏をよぎる、悪魔くんの顔。
江本くんに抱きしめられているところを、悪魔くんには見られたくないっていう気持ちが大きくなって……
身をよじりながら、江本くんの腕から抜け出した。
江本くんが下唇を噛み締めるのを目で追うと同時に、江本くんの後ろに見えた人影に呼吸が止まるかと思った。
私の声につられて、江本くんが振り返る。
……よりによって今、1番見られたくないと願ったばかりだった悪魔くんが、私と江本くんを少し離れた場所から見ていた。
無言のままクルッと私たちに背を向けて、歩いていってしまう悪魔くんに、私は咄嗟に一歩踏み出す。
誤解、されたくない。
……悪魔くんにだけはどうしても。
───だけど、
私の手首を掴んで引き止める江本くんに、胸が痛む。
……江本くんを救ってあげたいなんて思いながら、結局は自分のことばかりな自分が不甲斐ない。
私の手首を握りしめる江本くんの手に、私は空いている反対側の手をそっと重ねる。
その瞬間、江本くんの手から力が抜けた。
スルッと離された私の手は、そのままぶらりと重力のままに下に落ちていく。
面食らった顔で私を見つめたあと、いつものように呆れた顔をした江本くん。
もうすっかり見えなくなってしまった悪魔くん。
もう一度、江本くんに「行けよ」と背中を押されて、気づいた時には走り出していた。
***
───階段の踊り場
勢いだけで追いかけて来たのはいいけれど、 何を言えばいいんだろう。
階段の踊り場に立っている私を、階段の3段目から見下ろす悪魔くんはの瞳は冷たい。
そう言って再び階段を登り始めた悪魔くんに、ズキッと胸に何かが刺さる。
そんな言い方、酷いよ。
階段を昇る悪魔くんの足が止まる。
私を振り向く気配に、またあの冷たい瞳を見るのが怖くて身構えた。
それだけ言って振り返ることなく階段を昇って行く悪魔くんに、頬をツーッと温かい何かが伝う。
……少し、自惚れていたのかもしれない。
ちょっとだけ、仲良くなったつもりでいた。
もしかしたら悪魔くんもそれなりに私に心を開いてくれているのかもしれないって。
泣くな、泣くな、と言い聞かせるほど、どんどん溢れていく涙は自分じゃもう制御不能。
踊り場の壁にもたれて、嗚咽を殺しながら泣くのがこんなに苦しいなんて知らなかった。
タイミング悪く階段を昇ってきたお兄ちゃんに泣いているところを見られても、涙は止まらない。
”違う”と首を振るだけで精一杯。
優しく私の頭を撫でてくれるお兄ちゃんの手は、昔からずっと変わらない。
私、自分でもびっくりするくらい、悪魔くんの言葉にショックを受けてる。