第7話

皆さん図書館ではお静かに願います
───ある日の放課後
木下あまね
木下あまね
あの、悪魔くん?
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
あ?
木下あまね
木下あまね
どこ行くの?
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
着けば分かる
木下あまね
木下あまね
そ、それはそうかもしれないけど……
でも先に聞いておきたいって言うか
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
……逃げるだろ
木下あまね
木下あまね
に、逃げないよ!
……って、そりゃ内容によるけど
───それに。

ギュッと繋がれた手が私を離してくれそうにもない。
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
もうすぐ着くから黙ってついてこい
なぜかHRの後、悪魔くんは私の席までやってきて「これから少し付き合え」と私を教室から連れ去った。

一瞬見えたななちゃんの顔はギョッとしていて、恐らくお兄ちゃんにこの事を報告するか悩んでいるはず。
木下あまね
木下あまね
悪魔くんの横暴……
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
否定しない、悪魔だからな
木下あまね
木下あまね
……開き直るのズルい
***

───5分後
木下あまね
木下あまね
え、図書館?
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
木下あまね
木下あまね
なんで図書館?
悪魔くん、勉学でもするの?
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
人助けだと思ってそこ座れ
木下あまね
木下あまね
え?……人助けって、
悪魔くんにそこ、と指さされた席を見て思わず固まる。
江本 千冬
江本 千冬
あ!敦人〜♡
木下あまね
木下あまね
あ……この間の、
江本 千冬
江本 千冬
は!?
なんでこの女も一緒なの?
私を指さして”嫌だ”って感情を隠そうともしない千冬ちゃんは、キッと私を睨むと、立ち上がって悪魔くんの腕に自分の腕を絡めた。
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
……離せ
江本 千冬
江本 千冬
今日は2人っきりで千冬の勉強
見てくれるって約束でしょ?
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
2人っきりなんて約束はしてねぇ
江本 千冬
江本 千冬
えー!
千冬、敦人と2人がいい!
木下あまね
木下あまね
……あの、悪魔くん
これはどういうことかな
全然、状況が飲み込めなくて、恐る恐る悪魔くんを見上げる。

だって、この感じ……まさかと思うけど───。
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
受験勉強見てやったら
俺のこと諦めるって言うから
木下あまね
木下あまね
……言うから?
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
お前が代わりに勉強見てやれ
木下あまね
木下あまね
っ、え!なんで私!?
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
苦手なんだよ、こういう女……
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
それに、あまねは
こいつに俺のこと諦めて欲しくねぇの?
千冬ちゃんに腕を掴まれたまま私の耳元に顔を寄せた悪魔くんは、私にだけ聞こえるように囁いた後で不敵に笑う。

悪魔くんが喋るたびにくすぐったくて、じわりと耳が熱を持った。きっと今、顔真っ赤だろうな。

いや、でも待って?
『諦めて欲しくねぇの?』って……。
そこは、私には関係ないよね。
江本 千冬
江本 千冬
ちょっと、近いからっ!
千冬以外とそんな近づいたらダメ!
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
……声がでけぇ
江本 千冬
江本 千冬
あーあ、最悪。
超邪魔なのが引っ付いてきた
木下あまね
木下あまね
いや、私は……
江本 千冬
江本 千冬
まあ、いいけど?
どうせ千冬の可愛さに勝てるわけないし
江本 千冬
江本 千冬
敦人と千冬のラブラブっぷり
見せつけられて泣かないでよね
……こ、これは敵意を剥き出しにされている!?

私、千冬ちゃんと可愛さで勝負しようなんてこれっぽっちも思ってないよ!

そもそも、別に悪魔くんを取り合う気もないし!!

だけど───。
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
あまね、いいよな?
木下あまね
木下あまね
……す、少しだけなら
悪魔くんのこの瞳に見つめられると、首を横に振ることなんかできっこない。

それに、少なからず困っている人を見捨てるなんて私の性格上できなくて……。
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
さすが天使
木下あまね
木下あまね
悪魔くんの悪魔……
江本 千冬
江本 千冬
敦人は千冬の隣ね〜♡
こっちこっち〜!
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
なんでそうなんだよ……
こうして、悪魔と小悪魔による地獄の勉強タイムが始まってしまった。
***

───30分後
木下あまね
木下あまね
それで、xをyに代入すると
江本 千冬
江本 千冬
ね、敦人♡♡
こっち向いて?
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
…………
江本 千冬
江本 千冬
千冬と釣り合う男なんて
お兄くらいだと思ってたけど
本当に敦人は綺麗な顔〜♡
木下あまね
木下あまね
……あの、千冬ちゃん聞いてる?
江本 千冬
江本 千冬
うるさいなぁ
千冬に気安く話しかけないでよねっ!
江本 千冬
江本 千冬
そんなことより敦人!
もう勉強なんてやめて
どっか遊びに行こうよ〜
……ダメだ、根本的に話が通じる相手じゃない。
今、ななちゃんが酷く恋しい。

いつも私の話をウンウンと笑顔で聞いてくれるななちゃんの優しさが身に染みる。
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
あまね
木下あまね
木下あまね
えっ、
頬杖をついて私を見つめる悪魔くんに、悪魔くんの隣で千冬ちゃんが私を睨む。
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
疲れただろ
ちょっと休憩すっか
木下あまね
木下あまね
え?あ、うん……
江本 千冬
江本 千冬
ねぇ!千冬のことは!?無視!?
そんな冴えない女のどこがいいわけ💢
悪魔くんが気遣ってくれるのは嬉しいけど、おかげで千冬ちゃんにはどんどん嫌われている気がする……。
***

───さらに30分後

ずーっと、斜め向かい側から視線を感じている。何も言わない悪魔くんから視線だけのプレッシャー。

視線が気になりすぎて、悪魔くんへ視線を向ければ、思っていた数倍は優しい瞳とぶつかって、不可抗力でドキッとする。

慌てて目をそらす私を、クスッと笑う悪魔くんは楽しげで……。

もしかして、これも新手の嫌がらせ!?
木下あまね
木下あまね
2けたの正の整数があり、
十の位の数と一の位の数の和は12である
木下あまね
木下あまね
また、十の位の数と一の位の数を
入れかえてできる整数はもとの整数より、
江本 千冬
江本 千冬
あーあ!
千冬、もう飽きちゃった!!
木下あまね
木下あまね
え、
問10の問題を読んでいた私に、突然声を上げたのは千冬ちゃんだった。
江本 千冬
江本 千冬
そもそも、千冬
勉強しに来たんじゃないし!
木下あまね
木下あまね
え?違うの!?
江本 千冬
江本 千冬
当たり前じゃん!
千冬は敦人とラブラブしに来たの!
江本 千冬
江本 千冬
それなのに、
あんたが邪魔ばっかりするから
千冬ちゃんの言葉に何も言い返せない。

私だって悪魔くんに無理矢理連れてこられただけなのに!って思いながらも、相手は年下だし、ここは私が大人でいなければと思ってしまう。
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
帰れば?
木下あまね
木下あまね
えっ、
ずっと、千冬ちゃんに勉強を教える私を黙って見ていた悪魔くんが、ここに来て口を開いた。
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
勉強すんのが嫌ならもう帰れって
江本 千冬
江本 千冬
え?……千冬が!?
そんなの、
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
嫌なら真面目にあまねの話聞けよ
木下あまね
木下あまね
あ、悪魔くん……
江本 千冬
江本 千冬
分かったよ。
やればいいんでしょ……!
お怒りモードの悪魔くんに千冬ちゃんは渋々勉強を再開するべくシャーペンを握った。

口は悪いけど、何だかんだ言いながらも、千冬ちゃんをなるべく傷付けることなく、諦めてもおうとしている悪魔くんは優しいと思う。

───あ、でも。
私を巻き込んだから、そこは減点ね。