第2話

体育祭に向けて練習が始まりました
先生
お前らぁ〜!
本番だと思って本気でやれよ〜
───もうすぐ体育祭がやって来る。

クラス対抗二人三脚の練習をしている今、先生の指導にもどんどん熱が入って来ているのを感じながら、私はクラスメイトの千華ちゃんとお互いの足首をキュッとキツく結んだ。

これでよしっと!
千華
よりによって私とペアなんて
……足引っ張ったらごめん
木下あまね
木下あまね
……実は私もね、
二人三脚ちょっと苦手なんだ
木下あまね
木下あまね
だから、一緒
不安そうに眉を下げる千華ちゃんに、「ね?」と微笑めば、千華ちゃんも「ありがとう」と微笑んでくれた。

それが嬉しくて、私はもっと笑顔になる。
***
千華
いっちに、いっちに……
いよいよ自分たちの番になって、私と千華ちゃんはタイミングを合わせて走る……、と言っても、どちらかと言えば駆け足に近い緩やかなスピードを保ったまま。
木下あまね
木下あまね
千華ちゃん、もう少しだよ!
がんばろう!
千華
うんっ……!
練習なのに見えてきたゴールに嬉しくなって、思わず千華ちゃんに声をかけた瞬間、
千華
わっ……!!
木下あまね
木下あまね
えっ、ぅあ!
───ドンッ
私のせいでテンポが崩れてしまったらしく、バランスを崩した千華ちゃんに、繋がれている足を引っ張られて……。

私たちはそのまま2人同時に転倒してしまった。

───ズキッ

木下あまね
木下あまね
……っ!
千華
ご、ごめん……!
あまねちゃん、ケガない?
赤澤 七海
赤澤 七海
あまね!大丈夫?
隣で不安そうに私を見つめる千華ちゃんと、すこし遠くから慌てた様子のななちゃんの声。

正直なところ、転ぶ寸前に捻ってしまった足首がズキズキと嫌に痛んで、気を抜くと顔を顰めてしまいそうになる。

───だけど。
木下あまね
木下あまね
私は大丈夫だよ!
千華ちゃんこそ、ケガしてない?
千華
良かったぁ……
私も大丈夫!
私がここで『痛い』と言ってしまったら、千華ちゃんが申し訳ない顔をするのは目に見えている。

そう思ったら、咄嗟に痛みを我慢して気丈に振る舞う自分がいた。

千華ちゃんの悲しい顔を見る方が嫌だなって、素直にそう思ったから。
先生
ケガがなくて何よりだ!
練習でケガをしていたら元も子もない。
気ぃ引き締めて練習再開するぞ〜
私と千華ちゃんに駆け寄った先生が、私たちの無事を確認して安心した様子を見せる。

”練習再開”の言葉に内心ヒヤッとしながら、再び千華ちゃんの足と私の足を結び直す。

……大丈夫、大丈夫。
何事もなく、練習終わりますように!
千華
じゃあ、行こっか!
……せーのっ、
木下あまね
木下あまね
……っ、
千華ちゃんの掛け声で踏み出した足はズキズキと痛んで、内心……半泣き。

地面を蹴るたびに顔を歪めてしまう。


……あぁ、やっぱり素直に痛いって言えばよかった。こんな状態で練習した方が千華ちゃんに迷惑かけちゃうかもしれない。

そう思ったとき───。
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
おい
木下あまね
木下あまね
……え、
千華
あ、悪魔くん……!
知らないうちに私のすぐそばまで来ていた悪魔くんが、ふわりと私の手首を掴んで。

そのまましゃがんだかと思えば、シュルッと私と千華ちゃんの足を結んでいた紐を解く。
木下あまね
木下あまね
悪魔くん……
な、何してるの?
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
行くぞ、バカ
木下あまね
木下あまね
え、ちょっと……!悪魔くん!
降ろして!!
赤澤 七海
赤澤 七海
こらぁ!!
あまねを離しなさい〜!
ヒョイッと軽々私を抱き上げて歩き出す悪魔くんに、驚きすぎて軽いパニック。

……こ、これって俗に言うお姫様抱っこ!?
***

『すぐに戻りま〜す☆』と貼り紙されたドアに小さく舌打ちした悪魔くんは、私を抱き抱えたまま足でドアを乱暴に開けた。

悪魔くんに連れてこられたのは、保健室。
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
ほら見ろ、腫れてる
木下あまね
木下あまね
……っ、
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
こんな足で練習なんて
出来るわけねぇだろ、バカ
私を近くの椅子に座らせて、冷たい物言いとは裏腹に、私の足首に優しく触れる悪魔くんの指先。
木下あまね
木下あまね
な、なんで……分かったの?
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
は?
木下あまね
木下あまね
私が足、痛めたこと
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
……さぁな
悪魔くんが貼ってくれた湿布の冷たさが心地よくて、痛みが少しだけ落ち着いたような気がする。
木下あまね
木下あまね
ありがとう、悪魔くん……
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
別に……”天使”は大変だな?
言いたいことも言えなくて
木下あまね
木下あまね
て、天使って……
それお兄ちゃんとななちゃんが
言うから広まっちゃっただけで
木下あまね
木下あまね
それに、悪魔くんこそ。
みんなに悪魔くんって呼ばれてて
私には意地悪ばっかりで
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
あ?意地悪?
木下あまね
木下あまね
……悪魔くんのこと
もっと、怖い人かと思ってた
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
……バカじゃねぇの
木下あまね
木下あまね
……この短時間で
バカって3回も言われた
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
いちいち数えんなよ
木下あまね
木下あまね
だけどね。なんでかな?
不思議と嫌な気はしないの
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
……やっぱ
木下あまね
木下あまね
バカなのかな?
悪魔くんの言いそうなことを先読みした私に、悪魔くんはハァ……と大きなため息をひとつ。
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
なぁ───
───ガラッ
赤澤 七海
赤澤 七海
あまね!大丈夫!?
木下あまね
木下あまね
ななちゃん……
悪魔くんが何か言いかけたとき、勢いよく開いた保健室のドアから、ななちゃんが慌てたように駆け込んで来た。
赤澤 七海
赤澤 七海
ケガしたの?
気づけなくてごめんね〜
赤澤 七海
赤澤 七海
羽瀬くんに何もされない?
木下あまね
木下あまね
心配かけてごめんね!
悪魔くん、気付いてくれてね
手当もしてくれたんだ
赤澤 七海
赤澤 七海
え!?
あの”悪魔くん”が……手当?
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
……俺は戻る
後は勝手にやってろ
木下あまね
木下あまね
あっ……、悪魔くん!
本当にありがとう
私たちを残して保健室を出ていく悪魔くん。

『なぁ───』
あの時、悪魔くんは何を言おうとしたんだろう。
……悪魔くんって、どんな人なんだろう。

やっぱり、もっと悪魔くんを知りたい。
仲良くなりたいな。