第4話

悪魔くんがリレーに出る条件とは?
先生
ってわけだから、
クラスリレーのアンカーは
羽瀬に頼むからな〜
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
はぁ?
───LHRの時間。

クラスリレーの選抜メンバーが発表され、アンカーに選ばれた悪魔くんの心底嫌そうな「はぁ?」が教室に響く。
先生
この間の体育で50メートル走の
記録取ったんだろ?
先生
その結果を見ると、羽瀬のタイムが
クラスで1番速いんだよ
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
……あれは!
まじめに走んねぇと夏休みに
体力作り合宿に召喚するとか脅されて仕方なく
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
あの50メートル走の記録が
リレーの選抜に関係あるなんて
聞いてねぇっつーの!
先生
とにかく、羽瀬はリレーの選抜で決まりだ
練習にもちゃんと出るように!
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
…………
……大丈夫かな。

今、悪魔くんの顔に『絶対リレーなんか出ねぇ』って文字が見えた気が……した。
***

───昼休み
赤澤 七海
赤澤 七海
それで、なんか言ってた?
木下あまね
木下あまね
え?
赤澤 七海
赤澤 七海
カップケーキ!
味の感想とか
木下あまね
木下あまね
ふふ、分かりにくいけど
内心すごく喜んでる感じで
赤澤 七海
赤澤 七海
こんなに天使なあまねに
カップケーキもらえたんだもん
喜ばない方がおかしいよ〜
木下あまね
木下あまね
……え?
赤澤 七海
赤澤 七海
やっぱり、”悪魔”にも感情ってあるんだね
木下あまね
木下あまね
……あぁ!そっちの話!?
私、てっきりお兄ちゃんにあげた
ななちゃんのカップケーキの話かと
赤澤 七海
赤澤 七海
えっ!?
……あ、あれは……余っちゃって
特別あげる人もいなかったから
赤澤 七海
赤澤 七海
食べてくれたかな?大天使……
ほんのり赤く染るななちゃんの頬。

あの日のお兄ちゃんも、ななちゃんからのカップケーキ片手に、しばらくブツブツ独り言を言いながら最終的には赤くなってたような……。
木下あまね
木下あまね
帰ってすぐに私があげたカップケーキと並べて冷蔵庫に入れてるのを見たけど、次に冷蔵庫を開けた時には2つともなくなってて
木下あまね
木下あまね
今朝『美味しかったよ、ありがとね』
って言ってくれたから
食べてくれたのは間違いないと思う
赤澤 七海
赤澤 七海
……そっか。
あげて良かったぁ
”余っちゃって”なんて言ってたけど、きっとななちゃんはお兄ちゃんのこと少なからず想ってくれてる気がする。

……お兄ちゃんは、どうなんだろう?

悪魔くんは、カップケーキ食べてくれたのかな。
味の感想なんて聞くのは怖いけど、聞いてみたい気もする。

……はじめて誰かのために作ったカップケーキだから、かな?
***

───放課後
木下あまね
木下あまね
あ、お兄ちゃんからだ
【あまねごめん!放課後に進路指導あるの忘れてた…。一緒に帰りたかったけど今日はさすがに無理そう(T_T)すげぇ癪だけど赤澤にでも送ってもらって】
木下あまね
木下あまね
お兄ちゃん、今年は受験生だもんね
木下あまね
木下あまね
自分の代打を頼む相手は
やっぱりななちゃんなんだ
お兄ちゃんからのメッセージに、ふふっと小さく笑いがこぼれる。

でも残念ながら、ななちゃん今日はバイトの日で、さっき先に帰っちゃったんだよね。

たまに1人で帰るのも、新鮮でいいかも。
なんて、ちょっとワクワクして来ちゃった。
***
木下あまね
木下あまね
あ、
生徒玄関から1歩外へ出たところで、バッタリ出くわした見覚えのある背中。
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
……またお前かよ
木下あまね
木下あまね
悪魔くん、これから練習?
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
だから俺はリレーなんか出ねぇって
木下あまね
木下あまね
どうして?私は見たいけどなぁ
悪魔くんがリレーのアンカーしてるとこ
木下あまね
木下あまね
だって、凄いことだよ?
リレーのアンカーなんて
誰にでもできることじゃないし
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
他人事だと思って……
不貞腐れた横顔。

赤茶色の髪の短い髪がサラッと風に吹かれて、伏し目がちのまぶたの先で長いまつ毛が揺れてる。

……悪魔くんって、こんなに整った顔立ちだったんだなぁ。

いつも『意地悪!』っていう先入観ばかりが先立って、悪魔くんのことをちゃんと見てなかったことに改めて気付かされた。
木下あまね
木下あまね
一緒に頑張ろうよ!ね?
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
お前は何を頑張るんだよ
木下あまね
木下あまね
あ、そっか……じゃあ
私は一生懸命応援するよ
フレーフレー!って
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
……相変わらず、バカか
木下あまね
木下あまね
いい考えだと思ったのになぁ
ガクッと項垂れる私を、隣で小さく笑う音がした。
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
……そこまで言うなら
出てやるよ、リレー
木下あまね
木下あまね
え?
数歩、私へと距離を詰める悪魔くん。

……その瞳に私が写っているのが分かるくらい近づいた悪魔くんは、感情の読めない顔で私を見つめる。

そのまま、私の顔のすぐ横で、悪魔くんが生徒玄関のドアに手をついた。
木下あまね
木下あまね
で、でも!
なんで急に出てくれる気になったの?
必然的に、悪魔くんと生徒玄関のドアに挟まれた私は身動きが取れないまま。

見上げる悪魔くんの整った顔に、困惑してしまう。

……こ、これが俗にいう壁ドン?
そう言えば、この前はお姫様抱っこだったなぁ。

って、そうじゃなくて!
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
さぁ?……カップケーキ
美味かったから、とか?
木下あまね
木下あまね
えっ、
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
その代わり、
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
リレー走りきったら、
俺と付き合え
木下あまね
木下あまね
……へ?
───俺と付き合え

脳内をこだまする悪魔くんの声。
それに、カップケーキ……美味かったって。

私を見つめる意地悪な瞳がフッと一瞬伏せられて、次の瞬間には壁ドンから解放された。

本当に一瞬の出来後だったのに、私の心臓はまだドキドキしている。
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
じゃ、約束だかんな
木下あまね
木下あまね
あ、待って悪魔くん……!
私に背を向けて歩いていく悪魔くんの後ろ姿を、もう何度こうして見送っただろう。

私が悪魔くんに付き合えば、悪魔くんはリレーのアンカーを引き受けてくれる……ってこと?
それって悪魔くんに何かメリットあるのかな?
木下あまね
木下あまね
……行っちゃった
遠くなっていく悪魔くんの背中に、小さく呟く。
木下あまね
木下あまね
悪魔くん、また明日ね