第5話

デートという名の嫌がらせですか
───体育祭 当日

空は快晴。

雲ひとつない空って、本当に存在するんだなぁ。
なんて、ぼんやり空を見上げていた私は……
赤澤 七海
赤澤 七海
あまね!
アンカーの悪魔くんが走るよ〜
木下あまね
木下あまね
え、もう!?
ななちゃんの声に、慌てて視線をグラウンドへと戻した。
赤澤 七海
赤澤 七海
わ、さっすがに速いね〜
───サッと駆け出した悪魔くんは、軽やかな身のこなしでぐんぐん他の組との差を広げていく。

……速い。

あ、そうだ!
木下あまね
木下あまね
頑張れ〜!!
悪魔く〜〜ん!!
両手でメガホンのように口元を囲って、悪魔くんに聞こえますように!と願いながら大声で叫ぶ。

私は応援を頑張るって約束したもんね。
赤澤 七海
赤澤 七海
ちょ、あまね!
……大丈夫?そんなことして!
赤澤 七海
赤澤 七海
もし……
シスコン大天使に聞かれてたら
───パァン!


鳴り響くピストル。
ゴールテープをもちろん1位で切った悪魔くんに、グラウンド中から歓声が湧きあがる。
木下あまね
木下あまね
やったぁぁぁあ!!!!
木下あまね
木下あまね
見た!?ななちゃん!
悪魔くん、ぶっちぎりだったね!
赤澤 七海
赤澤 七海
これは……
シスコン大天使vs悪魔の決闘も近いかも
赤澤 七海
赤澤 七海
ま、あまねが楽しそうなら
私はなんでもいいけど♡
すごいな、悪魔くん。

あんなに嫌がってたのに、いざ走ったらちゃんと1番取っちゃうんだもん。
***

───体育祭のあと
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
ってことで、
約束通り付き合えよ?
木下あまね
木下あまね
もちろん!約束だもん。
私でよかったら付き合うよ?
どこにでも!
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
……はぁ?
木下あまね
木下あまね
どこ行こっか?
悪魔くん、空いてる日ある?
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
そう言う意味じゃねぇよ……
普通分かんだろ、バカ
木下あまね
木下あまね
え?
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
……バーカ
木下あまね
木下あまね
悪魔くん
な、なんか怒ってる?
今の流れを思い出してみても、悪魔くんをイラつかせるようなポイントは見当たらなくて……。

必死に頭を回転させてみたけれど、分かったことはと言えば……
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
明日……駅前に10時。
いじめ倒してやるから覚悟して来い
やっぱり悪魔くんは、”悪魔”だってこと。
木下あまね
木下あまね
い、いじめ倒す……とは
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
まぁ、楽しみにしとけ
俺とのデート
木下あまね
木下あまね
デ、デート!?
最近、ちょっと優しくされてすっかり油断していたけれど……そうだ、相手はあの”悪魔くん”。

それに、これは悪魔くんがリレーを頑張った代償。

もしかして、わざわざ私と休日を一緒に過ごす=日頃の鬱憤を晴らすため……?

つまり、デートという名の嫌がらせ……?

ひぇ〜!絶対そうだよ。
そ、それしか考えられない。
***

───デート当日

昨日の夜は色んな意味でドキドキして、全然眠れなかった。
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
ん、お前の分
木下あまね
木下あまね
ありがとう……
悪魔くんとのデートもそうだけど、お兄ちゃんにバレたらどうしようって思ったら余計ドキドキして。

何となく、悪魔くんと出かけることはお兄ちゃんに言えなかった。

【1日悪魔くんの意地悪に耐える日】

自分にそう言い聞かせて、お兄ちゃんには『ななちゃんと出かける』と嘘までついて家を出た。

───なのに。
木下あまね
木下あまね
な、なんか……
今日の悪魔くん優しくて調子狂う
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
は?
木下あまね
木下あまね
もっと……こう、
1日中いじめ倒されるのかと
だって、いじめ倒してやるって悪魔くん言ってたし。

それなのに、今日の悪魔くんは意地悪の”い”の字も感じさせない。

待ち合わせ場所には私より先に来てくれていたし、歩く歩幅は私に合わせてくれる。

不意に優しく笑って楽しそうな顔をするから、その度に胸の辺りがザワつく。

おまけに今話題のテーマパークに連れてきてくれて、悪魔くんもこういうとこ来るんだ!って驚いた。

それに───。
木下あまね
木下あまね
悪魔くんも……
ソフトクリームとか、食べるんだね
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
……うるせぇ、黙って食え
甘いものを食べてる悪魔くんなんて、今まで想像できなかったけど、隣でソフトクリームを食べる悪魔くんの顔は心なしか幸せそうで。

好きなんだな〜って見て分かる。

そう言えば、カップケーキも美味かったって言ってくれたっけ。もしあれが本当だったとしたら……
木下あまね
木下あまね
もしかして、甘党?
悪魔くんが甘党ってちょっと可愛、
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
お前、そんなに俺に
いじめられたいわけ?
木下あまね
木下あまね
えっ、
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
まぁ、俺はそれでもいいけど
言いながら、私の上に降る影。
至近距離から私を見つめる悪魔くんの綺麗すぎる顔……。

───ごくり、息を飲む。

ゆっくり近づいてくる悪魔くんに思考が追いつかなくて、のんびりしている自分の脳を慌てて急かす。

木下あまね
木下あまね
た、食べます!!
なんとか働き出した思考で慌てて言葉を紡いで、悪魔くんから手元のソフトクリームへと視線を落とした。
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
は?
木下あまね
木下あまね
黙って食べます……!
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
……今の流れは完全に
黙って目ぇ閉じるとこだろ
木下あまね
木下あまね
…………
もしあの時、黙って目を閉じていたら……その先に何が待っていたのかくらい、何となく私でも分かる。
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
おい、なんとか言え
───むにっ

横から伸びてきた手に捕まって、頬が形を変えた。
さっきは黙って食えって言ったくせに、今度はなんとか言えだなんて。

悪魔くんの横暴。
木下あまね
木下あまね
…………
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
……おい
木下あまね
木下あまね
…………
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
おい、あまね
木下あまね
木下あまね
ふふっ
ほらね?おしゃべりしながら
楽しく食べた方がいいでしょ?
木下あまね
木下あまね
もう”黙って食え”は禁止ね
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
……ったく、お前
ニッと笑って悪魔くんを見れば、悪魔くん小さくため息をついて諦めたようにソフトクリームを口に運んだ。
木下あまね
木下あまね
ふふ、美味しいね?
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
……あぁ
木下あまね
木下あまね
へへっ、楽しいね
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
……バカ
悪魔くんは、優しかった。

相変わらず横暴だけど、素直じゃないけど、もちろん意地悪も言うけど。

だけど、思ってたよりずっとずっと、優しかった。
そんな悪魔くんと過ごす時間は素直に楽しかった。