第6話

小悪魔ちゃんの登場に目が点です
───数日後

悪魔くんと出かけたあの日から、私の中で悪魔くんの見方が少し変わったような気がする。

生徒玄関で上履きに履き替える後ろ姿を見つけて思わず駆け寄る。
木下あまね
木下あまね
悪魔くん、おはよ
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
おはよ
今までは『意地悪!』っていう先入観が先走っていて、仲良くなりたいとは思いつつも、自分から積極的にコミュニケーションを取ろうとしなかった。

だけど、今は違う。
木下あまね
木下あまね
ふふ……
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
なんだよ
木下あまね
木下あまね
悪魔くんと挨拶し合ってるのが
なんだか不思議だなぁって
思わず笑いがこぼれてしまう。
そんな私に呆れながらも、悪魔くんは前よりも優しい顔をしているような気がする。

そんな悪魔くんに、内心また『ふふっ』と笑う。

自惚れかな?
前より仲良くなれた気がするのは。
木下 伊織
木下 伊織
あまね!?……誰?
場合によっては駆除するけど?
一緒に生徒玄関に入ったお兄ちゃんは、私と悪魔くんのやり取りに驚いたらしく目を見開いている。
木下あまね
木下あまね
クラスメイトの悪、羽瀬くんだよ
木下 伊織
木下 伊織
……へぇ、クラスメイト……
まさか仲良いとか言わないよね?
木下 伊織
木下 伊織
あまねが俺以外の男と話してるとこ
……初めて見た気がするんだけど
驚いているお兄ちゃんに、苦笑いをこぼす。

クラスの男子とはほとんど話したことあるし、先生だって男の人いるし、お兄ちゃん……大袈裟。
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
あぁ、噂のシスコン大天使?
木下 伊織
木下 伊織
その呼び方やめろ、クソガキ💢
木下あまね
木下あまね
シスコンっていうか
お兄ちゃんは、私のことを
大事に想ってくれてるだけだよね?
木下 伊織
木下 伊織
あまね正解!大正解!
兄ちゃんはあまねがすっごい大事なんだよ
木下 伊織
木下 伊織
目に入れても痛くないの、マジで
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
いや、痛てぇだろ
木下 伊織
木下 伊織
ちょっと黙ってろ💢
いたって真面目な声で『目に入れても痛くない』なんて言うお兄ちゃんにすかさず突っ込んだ悪魔くん。

そんな悪魔くんに視線を向けたお兄ちゃんは笑顔のままなのに、纏う雰囲気はピリピリと苛立っているようみ見えてソワソワしてしまう。
赤澤 七海
赤澤 七海
おっはよ〜
木下あまね
木下あまね
あ!ななちゃん、おはよ
赤澤 七海
赤澤 七海
なに?ついに悪魔vs大天使?
木下あまね
木下あまね
え?
木下 伊織
木下 伊織
アホ澤?こんな害虫がいるなんて
俺、報告受けてないけど?
赤澤 七海
赤澤 七海
私はシスコン大天使様の手下じゃなくて
あくまで”あまねの味方”なので
赤澤 七海
赤澤 七海
大天使様こそ、リサーチ不足では?
それでもあまね愛者ですか?
もしかして、愛が足りないのでは?
木下 伊織
木下 伊織
アホ澤、その口縫うよ💢
お兄ちゃんに睨まれて「こわーい」と自分の体を抱きしめるななちゃんは、全く怖がってない。

むしろちょっと笑ってるような……?
木下 伊織
木下 伊織
とにかく、羽瀬……だっけ?
うちのあまねに手出したら許さないから
顔面便器にぶち込むよ、マジで
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
……フッ
それは約束できかねるな
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
俺、やるなって言われると
やりたくなるたちなんだよ
木下 伊織
木下 伊織
はぁ!?💢
どうやら、お兄ちゃんと悪魔くんは犬猿の仲らしい。初対面とは思えないくらいテンポよく喧嘩する2人を唖然と見つめていれば、
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
じゃ、先行ってる
木下あまね
木下あまね
……っ、
私の頭にポンと手を乗せた後、悪魔くんは教室へと歩き出した。

……な、何?胸の奥の方がギュッてして、キューッて締め付けられて……なにこれ。
木下 伊織
木下 伊織
 ……あんの野郎!!
俺のあまねに気安く触りやがって💢
赤澤 七海
赤澤 七海
 ”羽瀬くんのあまね”になったら
大天使様、気安くあまねに触れないね?
木下 伊織
木下 伊織
はぁ!?💢💢
赤澤 七海
赤澤 七海
やば!そろそろ大天使様が噴火する
あまね、早く教室行こ!
木下あまね
木下あまね
わ、ななちゃん?
ま、待って……
ななちゃんに引きづられるように教室までの廊下を早足に歩く。

振り向けば、お兄ちゃんは頭を抱えて遠くを見つめている……大丈夫かな、お兄ちゃん。
***

───放課後
今日1日、お兄ちゃんは全ての休み時間に会いに来た。その度、悪魔くんに敵意を向けて……。

やっぱりお兄ちゃんは、心配性って言葉では甘いのかもしれない。みんなが言うみたいに、”シスコン”要素があるのかも。大事にされていることに変わりないし、もちろん嬉しいけど。

そこに悪魔くんを巻き込むのは良くないと思う。
木下あまね
木下あまね
悪魔くん、もう帰っちゃったかな
進路に向けての勉強会に参加するお兄ちゃんと、しばらくの間、放課後は一緒に帰れないことになっている。

悪魔くんと話すなら、放課後がチャンスだ。
お兄ちゃんからの分かりやすい敵意に、きっと悪魔くんも気を悪くしてるはずだから。
***

───校門前
木下あまね
木下あまね
あ、いた……
木下あまね
木下あまね
悪魔くん、待って!!
見つけた後ろ姿に急いで駆け寄れば、私の声に気づいて悪魔くんはゆっくりと振り返った。
木下あまね
木下あまね
あの、今日は
うちのお兄ちゃんがごめんね
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
別に、気にしてねぇよ
木下あまね
木下あまね
お兄ちゃん、多分勘違いしてて
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
勘違い?
木下あまね
木下あまね
悪魔くんと私の間には何もないってこと
ちゃんと説明して誤解解いておくから
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
いいよ、勘違いさせとけば
木下あまね
木下あまね
え、
江本 千冬
江本 千冬
あー!!
見つけた♡千冬の運命の人♡
突然、悪魔くんの腕にギュッと抱きついた女の子に、私と悪魔くんは揃って目を見開く。
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
誰だ、お前
木下あまね
木下あまね
運命の……人?
江本 千冬
江本 千冬
千冬のこと覚えてないの?
嘘、こんなに可愛い顔、忘れるなんて……
江本 千冬
江本 千冬
この前、千冬の財布拾ってくれたでしょ?
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
……あー、財布は拾ったな
でもお前のことは記憶にねぇ、離せ!
ブンッと腕を振り上げて、女の子を自分から離すと悪魔くんは心底嫌そうに眉間に皺を寄せた。
江本 千冬
江本 千冬
ひど〜い!
せっかく探しに来たのに!
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
一体、何の用だよ
江本 千冬
江本 千冬
千冬、あなたに一目惚れしちゃった
生まれて初めてだよ!
絶対、運命だと思うんだ♡
木下あまね
木下あまね
……っ、
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
俺はあいにく一目惚れなんて
信用してねぇんだよ、帰れ
目の前で小悪魔テク全開で迫る千冬ちゃん。
それを華麗にスルーしてしまう、1枚上手の悪魔くん。

……な、なんだろう。
すっごく居心地が悪いです。