前の話
一覧へ
次の話

第1話

あるところに天使と悪魔がいました
───あるところに、誰からも愛される
まるで天使のような女の子がいました。
木下あまね
木下あまね
お母さん、行ってきま〜す
木下 伊織
木下 伊織
俺も、行ってきます
お母さん
お母さん
行ってらっしゃい
2人とも気をつけてね〜
私、木下きのした あまね。
今日から高校2年生に進級する。

お母さんに笑顔で手を振って家を出れば、一緒に家を出た1つ上のお兄ちゃん、木下 伊織きのした いおりはすかさず私を車道側から遠ざけた。
木下 伊織
木下 伊織
あまねのことは全ての害虫から
兄ちゃんが守ってやるからな
木下あまね
木下あまね
ありがとう、お兄ちゃん
木下あまね
木下あまね
たけど、私ももう高校2年生だよ?
1人で学校くらい通えるのに
木下 伊織
木下 伊織
何言ってんの、あまね。
1人で登校なんて俺の目の黒いうちは
絶対ダメに決まってるでしょ
木下あまね
木下あまね
お兄ちゃんは心配性だなぁ
木下 伊織
木下 伊織
あまねはとにかく可愛いんだよ
可愛すぎて兄ちゃん心配が尽きない
木下 伊織
木下 伊織
天使なんだよ、天使!
木下 伊織
木下 伊織
もしクソみてぇな男とか
あまねに害を及ぼす虫けらがあまねを
傷つけるようなことがあれば
木下あまね
木下あまね
え?今、なんて言ったの?
一瞬ハッとした顔をした後、お兄ちゃんはニコリと笑って私を見る。
木下 伊織
木下 伊織
……ううん、なんでもない
木下 伊織
木下 伊織
遅刻するから、少し急ごっか
木下あまね
木下あまね
わ、もうこんな時間なんだね
相変わらず、かっこいいお兄ちゃんは私の自慢。

私のことをすごく大切に思ってくれていて、危険なことから私を守ってくれる、まるでヒーローみたいな人。

***
赤澤 七海
赤澤 七海
はい、お疲れ様でした〜
木下 伊織
木下 伊織
ちょ、俺のあまね……!
学校に着くなり、親友の”ななちゃん”こと、赤澤 七海あかざわ ななみちゃんが、お兄ちゃんから私を引き離す。
赤澤 七海
赤澤 七海
おはよう、私のあまね〜♡
木下あまね
木下あまね
おはよう、ななちゃん!
ななちゃんは、ふんわりした雰囲気で天使すぎるお顔立ちの可愛らしい女の子。
赤澤 七海
赤澤 七海
ここからは私があまねを守るので
大天使様は消え失せて下さいませ
木下 伊織
木下 伊織
いや、俺が教室まで……
赤澤 七海
赤澤 七海
いーえ、結構です
だけど、性格は案外サバサバしていて、お兄ちゃんに対しては割と毒舌だったりするから面白い。

お兄ちゃんに勝てるのは、今のところななちゃんとお母さんくらいしか見たことがないな……なんて思いながら、

名残惜しそうに私の頭を撫でて「またね、あまね」と呟いたお兄ちゃんが自分のクラスへと向かっていくのを見送った。
赤澤 七海
赤澤 七海
そうだ!また同じクラスだよ!
木下あまね
木下あまね
え!ほんと?
……よかった〜!
本当は昨日の夜、少しだけ不安だったんだ。
もし、ななちゃんとクラスが離れちゃったらどうしようって思ったら、ドキドキして眠れなくて。
木下あまね
木下あまね
ななちゃんと一緒なら
また楽しい1年になるね
***

なんて、ウキウキで教室へ向かった私を待っていたのは───。

羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
またお前かよ
木下あまね
木下あまね
あっ、悪魔くん……
つい”悪魔くん”と口走り、ハッとする。
1年の時から同じクラスの羽瀬 敦人はせ あつとくんは、みんなから”悪魔くん”と呼ばれるくらい、口が悪くて意地悪ばかりで、私が唯一苦手意識を持つ相手。

しかも私にだけやけに意地悪な気がする……。

”またお前かよ”って、それ……私のセリフだよぉ。
……もちろん、口が裂けたって言えないけど。
木下あまね
木下あまね
また、よろしくね
曖昧に笑ってみる。
赤澤 七海
赤澤 七海
えっ、羽瀬くんも同じクラス!?
あまね守護係として……油断できない
隣ではななちゃんがすっかり戦闘モード……。

用事があって悪魔くんに声をかけても『チビすぎて見えなかった』って言われたり。

日直が一緒の日なんかは『俺の許可なく勝手にどっか行くな』なんて理不尽に怒られたり。

『お、飲みたかったんだよこれ』なんて、私が買ったジュースを横取りされたり。
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
相変わらずアホ面だな
木下あまね
木下あまね
え、アホ面……
1番ショックだったのは、私と席が隣になったときに、悪魔くんがわざわざ他の人に席を代わってもらっているのを見てしまったとき。

きっと、私は悪魔くんにすごく嫌われている。
……私、悪魔くんに何かしちゃったのかな?
赤澤 七海
赤澤 七海
あまねは天使なんだから
羽瀬くんなんかの言うこと
間に受けなくていいよ
ニコッと私に優しく笑ったななちゃんは、すぐに悪魔くんへと視線を向けて
赤澤 七海
赤澤 七海
もし、あまねのこと傷付けたら
大天使様が黙ってないからね
見てるこっちがヒヤッとするほど冷たい目で睨みつけた。
……どこかで見たことある、この目。

あぁ、そうだ。お兄ちゃんもたまにする……。
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
フッ、天使のお守りおもりは大変だな?
羽瀬 敦人
羽瀬 敦人
せいぜい、頑張って守れよ
ベッと舌を出して、楽しそうに口角を上げた悪魔くんは自分の席へと向かって行く。

そんな悪魔くんに、ななちゃんの怒りはヒートアップするばかりだけど……。
木下あまね
木下あまね
私は、仲良くなりたいのになぁ
赤澤 七海
赤澤 七海
……は?あまね!
ダメだよ、相手は悪魔なんだから〜
天使と悪魔は仲良くなれないの
……天使と悪魔、かぁ。

お兄ちゃんとななちゃんは私を”天使”なんて言うけど、実際は全然そんなことないし。

きっと悪魔くんだって、確かに意地悪だから苦手だなって感じるけど、多分、根っからの悪い人じゃないと思う。

もっとちゃんと悪魔くんを知って、いつの日か、もっと悪魔くんと仲良くなれたらいいな。