重い体を無理やりに起こして周りを見る。
外はまだ薄暗く完全に夜が明けたわけではないらしい。
案の定自分以外はまだ眠っていた。
朧気な記憶を遡り五条は思い出してしまった。
昨晩自分が誰に何をして、何を言ったのか…はっきりとでは無いが夜刀に抱きつき俺のだとか何とか口走ったのを覚えている。
ただ夜刀の返答の部分だけ濃い霧がかかったように思い出せない。他のことはぼんやりと思い出せるのに、夜刀の返事だけ全くといっていいほど思い出せなかった。
しばらくウンウンと頭をひねってみたが思い出せずガンガンと痛む頭に眉をひそめた。
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夜刀神side
何かを考え込んでいた五条はそう呟いて再び布団へと沈んでいった。しばらくすればスースーと寝息が聞こえ始める。
夜刀神はそっとそう呟いて実年齢より幼い寝顔を晒す五条の額に口づけを落とす。
恋も愛も手放すと決めた。
どんなに愛しても“夜刀神”は偽ることしかできないから。
そして……
置いていかれるのはとっても辛いことを知っているから。
だから、ごめんね…知らないフリをさして。
そっと目を伏して夜刀神は自虐めいた笑みを浮かべた。
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旅館の美味しい朝ごはんを食べて散歩ついでに家入と二人で観光地を見て回る。今日も賑わう街がそこにはあった。
嘘つき…朝ごはんもいつもより少なめだった。
きっと昨日のことで何かを気にしているのだろう。
家入は街を眺める夜刀をチラリと見る。
街を眺めていた深紅の瞳が家入をとらえる。
その目は驚きによって丸く開かれていた。
家入の言葉に夜刀は微笑みありがとう、と呟いた。
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むかしむかしまだ神様が人間の近いところにいた時代。
おる山の奥底に角を持つ大きな蛇神様がいた。
to be continued.
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!