第3話

始まりの予感
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2019/10/09 01:29


いつも通りの平和な土曜日。私が4歳の頃の話。

朝起きて今日どこの公園に遊びに行くかワクワクしながらパジャマからお気に入りのキャラクターの服に着替えていた。

いつもままは笑顔で、家族のキラキラとした笑い声がしている。

しかし、今日はままの体調が悪い日だ。ままは時々体調が悪くなり、寝込む時がある。

その為、今日のお昼ご飯は家から自転車で15分程の場所にある牛丼屋さんに姉【J子】とおつかいに行く予定だ。


私はままが心配で時々、ままが寝ている寝室に声をかけに行く。

私:「まま?大丈夫?しんどいの?」
まま:「.......うん。」

いつもは笑顔で返事をしてくれるままが、今日は体調がとても悪いのか元気が無い。

私:「何か困った事あったら教えてね?」

何度かままに声をかけたが、ままはだんだん無反応になっていった。

私と姉【J子】はままがしんどくならないように、静かに家族ごっこをして遊んでいた。

リビングの時計が音楽に合わせて12時を知らせてくれる。
そろそろお腹が空いてきた。

その時、ままが寝室からリビングに出てきた。

ままは顔色が悪く少し怖い顔をしていた。

しばらくしてままは、私達に話しかけた。
しかし、その言葉は少し冷たくて、無関心な言葉だった。
私は何か違和感を感じた。
いつもニコニコしているままが、今日はなんだか怒っている。
そして、だんだんとままの声が大きくなり始め、私達はだんだんと怖くなってきた。

怒られている事はわかるのに。ままが何に怒っているのかよく分からない。

こんなに怒っているままを見るのは初めてだ。
そんなままの癇癪を起こしている姿を見て怖くてその場で立っていることしか出来なかった。

いつもはニコニコしているまま。
今日は何か悪い魔法でもかかったような、それはままではなく鬼の目をした魔女のようだった。

私と姉はままの目をじっと見ながら、声すら出す事が出来なかった。

まま:「お前らいい加減にしろよ!しんどくて寝込んでんのに看病すら出来ひんのか!」

そんな言葉が一方的に飛んでくる。


恐怖の時間が1時間続いた。

だんだんとままは落ち着きを取り戻し、ままはまた、無関心なままに戻った。

すると、急にままがお金を私達に渡した。
まま:「買ってこい」

私は無言でままの目を見てお金をもらった。

私と姉は硬直していた足を必死に前へ前へと動かし玄関の扉を開けた。

扉を閉めた瞬間。
一気に緊張が溶け、ただひたすらお互いの顔を見ながら泣き続けた。言葉も無いままずっと泣き続けた。怖くて怖くて。何が起こっていたのか分からなかった。

泣きながらマンションの1階までエレベーターで降りた。

姉【J子】が「まま何か変だった。いつもと違った。怖かった。」と言った。
私も泣きながら頷いた。
私達はしばらく恐怖の時間を思い出しながら言葉に出し、頭で理解しようとしていた。
しばらく放心状態で時間だけが過ぎた。

しばらくして、姉が私に声をかけ落ち着きを取り戻した。
「泣き止んで、牛丼買いに行こ」


私達は、涙を拭いて自転車にまたがり牛丼屋へ向かった。

半分まで来た頃には姉と私は笑顔で歌を歌っていた。
私と姉は牛丼の並盛を2つ買いマンションへ帰った。

マンションに着いた頃、またあのままの姿を思い出した。
ままがまた怒っていたらどうしようと戸惑いながら、マンションの玄関扉の前で私達は顔を見合わせぐっと手に力を込め、重い扉を開けた。

姉:私「.......ただいま。」
小さな声で言った。

母:「おかえり!」

重い扉の向こうに立っていたのは笑顔のいつも通りのままだった。
私と姉はそんな母を見て嬉しくて走ってままのもとへ行き抱きついた。

さっきまでの母はきっと何か魔法にかかっていただけだったんだ。
そう思った。

きっとこんな事は二度と起こらないと心から確信していた。
今日だけ。そう信じていた。


私達は牛丼を食べながら、おつかいでの出来事をままにたくさん話をした。

姉:私「あんな!R子とJ子な!歌歌っててん!そしたらな!変なおじさんいてん!」

ままは笑顔で頷き一緒に、私達の話を聞いて笑っていた。

その時の牛丼はなにか不思議な、美味しくて、幸せな味がした。
こんな幸せな時間がずっと続くと思っていた。


その時の私達はこれが、始まりに過ぎない事を全く予想をしていなかった。
ここから私達の家庭の歯車が狂い始めた。

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