夜中の1時、風呂から上がって寝室に行くと、起き上がってスマホを見てたしげに声をかけた。
慌ててスマホを隠すしげに苦笑しながら、隣の布団に入る。
そう言うと、てへっと笑う。
布団にもぐりこんでしばらくしたら、しげの声がして顔を向けた。
見せられたムービーは、イヤホンささってて声は聞こえないけど、何かを説明しながら踊ってる神ちゃんが映ってた。
指先の動きまでちゃんと。
ふと響いた声に、「へ?」と声が出る。
笑って言うしげに「なんで?」と聞く。
スマホを置いて、布団にもぐりながらしげが笑う。
俺も笑うと、「今の聞いたら淳太怒るやろうな」って肩を震わせながら笑って、顔を半分隠すように布団をかぶった。
笑い声もなくなってしんとした部屋に、やわらかなしげの声が響く。
「なんで」そんな言葉は、しげの「ふふっ」って笑い声にかき消される。
聞こえた自分の声は、びっくりするくらい小さかった。
当たり前のように言われて、「いや、おかしいやろ」そうしげの方を向くと、
しげは泣きそうな顔で笑ってた。
ー「多分、一生恩返しなんかできひんから」
続けた言葉は、小さくて、震えてた。
「おかゆ作ってあげて、食べさせてあげるねん」なんて笑うしげの表情は、暗くてよく分からなくて、
でも、頬を伝った涙は、見逃さなかった。
手を伸ばしてしげの頭を撫でながら、そう言った。
恩返しなんか、しなくていい。
俺は、しげにいっつも助けられてるんやから。
俺の方が恩返ししたいくらいや。
今、しげの方を見たらきっと泣いてしまう。
やから、「ええからはよ寝な」そう言っておもむろにしげと反対方向に寝返りを打った。
溢れ出す涙に、唇を噛む。
小さく後ろから聞こえた声は、震えてた。
段々と、分かってくる。
毎日一緒にいれば、しげが弱っていくのを、メンバー誰だって分かってる。
しげ、
俺はお前が思ってるほど強くないねん。
しげの言葉を、冷静に受け止められるほど大人じゃない。
しげの寝息が聞こえた頃、涙をぎゅっとぬぐって寝返りを打った。
ぎゅっと手を握って呟いた声は、まだ涙で震えてた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。