首が絞まる。
苦しい。苦しいよ...
いっそ、このまま死んでしまおうか。
そんなことをどうしても考えてしまう。
苦しい。痛い。辛い。
でも...
私は、やりづらくなった呼吸を一生懸命しながら
女王に叫んだ。
すると、私の首を掴む愛梨の手が、少しだけ
緩んだ。
また、首を絞める手が強くなる。
愛梨が怒鳴った瞬間、クラスが静まり返った。
私はそう言って、愛梨をぎゅっと抱き
締めて、頭を撫でた。
愛梨は、信じられないと言うような
情けない声を上げた。
愛梨が、万引きをしていた所は
ドラッグストアだった。
私はそれを疑問に思って、何度も動画を
見直していた。
そうしたら、分かってしまった。
愛梨が泣いていた。
何故かは、分からない。
けど、泣いていた。
愛梨が、今の女王になってしまった
ことと関係しているのではないか。
私は、そう思った。
だから、愛梨からその根拠となる事柄を
吐き出させたのだ。
愛梨のお母さんが病気にかかった。
けど、愛梨の家庭は貧困だった。
だから、ドラッグストアで万引きをした。
母親の薬を買うお金がないから。
愛梨が今の性格になってしまったのは
日頃のストレスからだろう。
愛梨は悪い。けど、理由はちゃんとある。
だから、私は理不尽に愛梨を切り捨て
られなかった。
私は抱き締めていた愛梨を放すと
愛梨の顔を見つめた。
私は、愛梨の目からぽろぽろとこぼれ
落ちる涙を人差し指で拭った。
私はそう言って、微笑んだ。
すると、愛梨は大量の涙を流し始めた。
嗚咽を必死にこらえて泣いていた。
私は思った。
人は、必ずしも黒ではないと。
黒に見えても、ちゃんと、白がある
のだと。
人は汚い。
けど、人は汚れるほど頑張ったんだ。
そう、思えて、良かった。
ねぇ、暮斗。
私、ちゃんと平和にできたよ。
皆、皆、笑顔になれると良いね。
本当に幸せになった、という笑顔を─────────
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。