第5話

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2019/01/09 07:06
潮目 渚
あっ!
放課後。

帰っている途中で、渚が突然声を上げた。
桐島 和人
どーした?
潮目 渚
教室に忘れ物した。取ってくる!
渚はそう言って、来た道を戻っていった。
桐島 和人
あ!
葉連 暮斗
今度はなんだよ...
桐島 和人
俺も忘れ物した!取ってくる!
ヤバいヤバい。明日テストあるのに教科書
忘れてた...



















─────────────────────────────────





















ドタン!






俺が教室に入ろうとした時、教室から机が倒れる
音がした。

どうしたんだ...?







ガラッ






教室の扉を開ける。



















俺は、目の前の光景に目を疑った。
桐島 和人
何、してんだ...?
倒れている無数の机、その近くに
床に仰向けで押し倒された渚と、床に渚を
押し倒して馬乗りになり、渚の手首を片手で
床に押さえ付け、もう片方の手で渚の口を
押さえている安達がいた。
安達 寛
和人を押さえろ!
安達がそう言うと、数人の男子が俺を
うつ伏せに、床へ押さえ付けた。
桐島 和人
っ...!
その中には、あの優しい空がいた。

空の顔は、何度も「ごめんね。」と言っている
ような顔だった。

きっと、逆らえなかったんだ。1軍の安達に。
桐島 和人
安達!何やってるんだよ!
安達 寛
2軍は黙って見てろ。
安達はそう言うと、渚の口を押さえていた手を
どかした。

そして、その手を渚の頬に当てた。
潮目 渚
あ、安達くん、どうしたの...?
渚は震えた声でそう言った。
安達 寛
本当、渚ちゃんは可愛いね。
安達はそう言って、渚の髪を自分の顔に近付けた。
安達 寛
いつもさ、渚ちゃん、いじめられてる
じゃん?だからさ、助けてあげるよ。
...は?何言ってるんだ?こいつ。

渚はいじめられてなんか...
潮目 渚
や、やめて!和人の前でその話は...!
安達 寛
渚ちゃんは可哀想だね。
安達 寛
いじめられてるのに、暮斗や和人に
気付いてもらえないんだから。
嘘、だろ...?渚、いじめられて...
安達 寛
しかも、それが暮斗や和人のせい
なんてね。本当、可哀想。
俺の、せい...?
安達 寛
だから、助けてあげる代わりに
俺の言うこと、聞いてね?
安達はそう言って、渚の唇に自分の唇を近付けた。
桐島 和人
やめろ!!
動こうとするが、びくともしない。
潮目 渚
や、やめ...
普段、滅多に涙を見せない渚が、目に涙をためた。






















どうしよう。このままじゃ渚が...

俺は見てるだけで何も出来ないのか?


どうしよう。誰か、誰か...




















渚を助けて...





























ガラッ






突然、教室が開いた。
潮目 渚
暮..斗...?
葉連 暮斗
渚と和人が戻ってくるの遅せぇと
思って来てみれば、何だよこれ。
暮斗はそう言って、安達を冷たく見下ろした。

そして、渚が泣いているのを見ると、顔色を変えて
安達の頭を蹴った。
葉連 暮斗
何してるんだよ。安達。
暮斗はいつもより低い声で安達にそう言った。

怒ってる。ものすごく怒ってる。
安達 寛
っざけんなよ!痛ぇじゃねぇか!!
いや、違う。
桐島 和人
渚の傷の方が痛ぇよ。
桐島 和人
お前がつけた傷も、俺らがつけた傷も
桐島 和人
全て治ってねぇんだよ!
渚の傷は治ってない。俺たちがつけた、心の傷。
葉連 暮斗
消えろ。今すぐ。
安達 寛
くっそ...!
安達はそう言って、俺を押さえ付けていた男子と
共に教室から出ていった。

たった1人を除いて。
津久見 空
ごめんなさい...
空はそう言って、俺と渚に謝った。
潮目 渚
ううん。大丈夫。
渚はそう言って笑った。

無理してることバレバレなんだよ。
桐島 和人
ほら!安達の所行かないと
何か言われるぞ!
俺は空の背中を教室の外に向けて押しながら
笑ってそう言った。
津久見 空
う、うん...ありがとう。
空はそう言って、教室を出ていった。
葉連 暮斗
大丈夫か?
暮斗はそう言って、床に座っていた俺と渚の腕を
引っ張って起こした。
潮目 渚
ありがとう。暮斗。
桐島 和人
助かった。
葉連 暮斗
まったく。世話かけさせやがって...
潮目 渚
あはは...
葉連 暮斗
お前ら、何か変なことされたか?
あ、これ、「された」って言ったら暮斗が安達を
殺しに行くパターンだ...
潮目 渚
大丈夫!暮斗が助けてくれたから!
渚はそう言って笑った。
桐島 和人
おうよ!暮斗はイケメンだな!
俺も、笑う。
葉連 暮斗
イケメンって何だよ...
あ、そういえば...
桐島 和人
渚、さっき安達が言ってた...
俺がそう言いかけた時、渚が首を横に振った。

まるで、「言わないで」と言っているようだった。
葉連 暮斗
どうした?
桐島 和人
あ、いや、何でもない...























渚がいじめられてるなんて知らなかった。

それも、俺たちのせいでいじめられている。


知りたくなかったような、知ってよかったような
複雑な気持ちになった。


知っていても何も出来ないなんて
そんなの悔しい。



















ごめんな。渚。

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