放課後。
帰っている途中で、渚が突然声を上げた。
渚はそう言って、来た道を戻っていった。
ヤバいヤバい。明日テストあるのに教科書
忘れてた...
─────────────────────────────────
ドタン!
俺が教室に入ろうとした時、教室から机が倒れる
音がした。
どうしたんだ...?
ガラッ
教室の扉を開ける。
俺は、目の前の光景に目を疑った。
倒れている無数の机、その近くに
床に仰向けで押し倒された渚と、床に渚を
押し倒して馬乗りになり、渚の手首を片手で
床に押さえ付け、もう片方の手で渚の口を
押さえている安達がいた。
安達がそう言うと、数人の男子が俺を
うつ伏せに、床へ押さえ付けた。
その中には、あの優しい空がいた。
空の顔は、何度も「ごめんね。」と言っている
ような顔だった。
きっと、逆らえなかったんだ。1軍の安達に。
安達はそう言うと、渚の口を押さえていた手を
どかした。
そして、その手を渚の頬に当てた。
渚は震えた声でそう言った。
安達はそう言って、渚の髪を自分の顔に近付けた。
...は?何言ってるんだ?こいつ。
渚はいじめられてなんか...
嘘、だろ...?渚、いじめられて...
俺の、せい...?
安達はそう言って、渚の唇に自分の唇を近付けた。
動こうとするが、びくともしない。
普段、滅多に涙を見せない渚が、目に涙をためた。
どうしよう。このままじゃ渚が...
俺は見てるだけで何も出来ないのか?
どうしよう。誰か、誰か...
渚を助けて...
ガラッ
突然、教室が開いた。
暮斗はそう言って、安達を冷たく見下ろした。
そして、渚が泣いているのを見ると、顔色を変えて
安達の頭を蹴った。
暮斗はいつもより低い声で安達にそう言った。
怒ってる。ものすごく怒ってる。
いや、違う。
渚の傷は治ってない。俺たちがつけた、心の傷。
安達はそう言って、俺を押さえ付けていた男子と
共に教室から出ていった。
たった1人を除いて。
空はそう言って、俺と渚に謝った。
渚はそう言って笑った。
無理してることバレバレなんだよ。
俺は空の背中を教室の外に向けて押しながら
笑ってそう言った。
空はそう言って、教室を出ていった。
暮斗はそう言って、床に座っていた俺と渚の腕を
引っ張って起こした。
あ、これ、「された」って言ったら暮斗が安達を
殺しに行くパターンだ...
渚はそう言って笑った。
俺も、笑う。
あ、そういえば...
俺がそう言いかけた時、渚が首を横に振った。
まるで、「言わないで」と言っているようだった。
渚がいじめられてるなんて知らなかった。
それも、俺たちのせいでいじめられている。
知りたくなかったような、知ってよかったような
複雑な気持ちになった。
知っていても何も出来ないなんて
そんなの悔しい。
ごめんな。渚。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!