いつものように、凛乃と並んで歩く帰り道。
いつもと違うのは、凛乃といながら他のことを考えてること。
部活で上手くいかないことがあった日、励まそうとしてくれた谷原に、心無いことを言った。
決して、本心じゃない。
なのに……あの時、自分を止められなかった。
……いつも笑顔だから、悩みなんてない。
"お気楽"なんて言葉を安易に投げつけてしまった。
俺の言葉に「当たり前でしょ!可愛い後輩なんだから!」と俺を睨んだ凛乃に俺は何も言えなくなった。
凛乃とは幼なじみで、生まれた時からずっと一緒に育ってきた。昔から正義感が強くて、人一倍優しくて、面倒みがいい姉御肌。
俺は、そんな凛乃のことが、物心ついた頃からずっと好きだ。
俺をいつまでも"弟"扱いする凛乃に、どうやって男として意識させようか試行錯誤する毎日だ。
今はまだ"弟"でも、いつか絶対……振り向かせる。
***
【部活終わり】
いつも来てる場所なのに。
……凛乃を待つ時とは違う、ソワソワした気持ちが俺を襲う。
───ドクンッ
聞こえた声に心臓が大きく跳ねる。
そんな俺の横をスッと通り抜けて歩いていく谷原を、呼び止められずに唇を噛む。
そんな意気地のない俺をもう一度振り返った谷原に、今度こそ!と口を開く。
驚いたように見開かれた谷原の大きな瞳に、俺の心拍数が上がる。
……八つ当たりするのは簡単なのに、自分の間違いを謝罪することがこんなにも緊張するものだなんて知らなかった。
谷原の顔が見れなくて、情けなく視線が床へと落ちていく。
そんな俺に聞こえたのは───。
迷いのない、優しい谷原の声だった。
フワッと笑って、簡単に俺を許してしまう谷原の寛大さには頭が上がらない。
「じゃあ、」と再び歩きだそうとした谷原を、俺は無意識のうちに呼び止めた。
いつだったか。
今思い返せば、あの時も。
俺は谷原に、酷い態度を取ったっけ。
"そんなジンクスに願掛けするより
凛乃のことは自分で振り向かせる"
なんて言っといて、今更って言われるかもしれない。
それでも───。
正直、ジンクスなんてどうでも良くて。
今だって、ジンクスに頼らずとも凛乃を振り向かせてやる!って思ってる。
だけど、このジンクスに乗っかることで、谷原に少し歩み寄ろうとする俺がいる。
嬉しそうに笑われると、照れくさい。
だけど、それ以上に、谷原が笑ってくれることにホッとした。
きっと谷原は世界一、笑顔が似合う。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!