***
【朝練の終わり】
昨日、瀬戸くんに言われた言葉を布団の中でも延々と考えてしまった。
でも、考えても答えが出ることはなくて、手に入れたのは寝不足だけ。
朝練が終わって、各々ストレッチをしている今。
嬉しい言葉をくれたコーチに、大きく返事をした。
───だけど。
いつもの……笑顔、か。
自分ではいつも通り笑っているつもりなのに、周りにはそう見えないらしい。
前までは、笑顔は正義だと信じて疑わなかった。
みんなを幸せにするハッピーアイテム。
そう思ってたのに。
……瀬戸くんと話して、本当にそうなのか、分からなくなった。
***
【2年の教室】
私のクラスを訪ねてきた凛乃先輩に、慌てて廊下へと飛び出したのは、ちょうど昼休みが始まった頃。
心配そうに私を覗き込んでくれる凛乃先輩に、じんわり心が温かくなる。
……紬にも、コーチにも、凛乃先輩にも。
みんなに心配をかけてる。
───このままじゃダメだ。
「誰がそんなこと言ったの!?」と、頬を膨らます凛乃先輩に何だか泣きたくなった。
───"笑顔が正義"の芽衣がいい。
その言葉が嬉しくて、自然と笑顔になる。
私に優しく笑う凛乃先輩は、やっぱり綺麗で、名前の通り凛としていた。
***
【部活終わり】
体育館の入口で、凛乃先輩を待っていたらしい瀬戸くんと鉢合わせて、お互いの間に気まずい空気が流れる。
挨拶くらいしないと感じ悪いかな、とか。
でも、話しかけられたくないかも?とか。
色んなことを考えているうちに、時間だけが過ぎていく。
瀬戸くんを見つけて駆け寄ってきた凛乃先輩。
そんな凛乃先輩に、瀬戸くんの空気が少し和らいだ気がした。
満面の笑みで両手の親指を立ててくれた凛乃先輩に、つられて笑みがこぼれる。
昼休みに凛乃先輩と話したおかげで、スッキリした気持ちで生き生きとチアに向き合えた。
バツが悪そうな瀬戸くんに、少し申し訳なく思う。
きっと、凛乃先輩は昼休みに話した"ある人"っていうのが、瀬戸くんだと気付いて、さり気なくフォローしてくれたんだろうな。
そんな優しい凛乃先輩だからこそ、瀬戸くんは好きになったんだと思う。
いつか、……瀬戸くんの恋が実るといいな。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。