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第8話

瀬戸くんの失恋
───ミーン、ミーン。

外では止むことなくセミが鳴いている。
グラウンドからは野球部の声。

そして、私たちチア部は体育館で今日も今日とてキツい練習の真っ只中だ。
チア部 コーチ
チア部 コーチ
どうした?
もうバテたのか?動きが鈍いぞ!
チア部 コーチ
チア部 コーチ
もっと笑顔を意識して!
楽しそうに!動きは大きく!
コーチの怒号が体育館中に響く中、私の頭の中を埋め尽くすのは、昨日の夜の瀬戸くんとの会話。

───凛乃に告白しようと思う。

真剣な瀬戸くんの声色が耳に焼き付いて離れない。

瀬戸くんはもう告白したのかな?
凛乃先輩は、なんて返事をしたんだろう?
上西 凛乃
上西 凛乃
……ストップ!!
凛乃先輩がかけた突然のストップで、その場にいた全員が静まって、一斉に視線が凛乃先輩に向けられた。

みんなよりワンテンポ遅れて凛乃先輩へと視線を向ければ、その視線がバチッとぶつかって……。
上西 凛乃
上西 凛乃
芽衣!
やる気がないなら今すぐ辞めて
谷原 芽衣
谷原 芽衣
……っ!
上西 凛乃
上西 凛乃
私はこの大会に全力をかけてるの!
やる気のない人に足を引っ張られて
台無しにされたくない
凛乃先輩の言葉は正論で、上の空で演技に集中出来ていなかった私は何も言えず下唇を噛む。

凛乃先輩に言われた言葉が悔しいからじゃない。
ダメすぎる自分が、情けないからだ。
谷原 芽衣
谷原 芽衣
……っ、すみませんでした!
もう一度初めからお願いします!
チア部 コーチ
チア部 コーチ
確かに、谷原はたるんでるぞ
もっと気を引き締めろ!
谷原 芽衣
谷原 芽衣
はい……っ
チア部 コーチ
チア部 コーチ
とはいえ、上西も。
気持ちは分かるがもっと冷静になれ
らしくないぞ
上西 凛乃
上西 凛乃
……すみません
ここで黙って下唇を噛んでたって、きっと何も始まらない。私が今やるべきことは───。

頭を空っぽにして、チアに集中することだ。
***

───夜。

布団に入っても全然眠れなくて、気づけばまた外の空気を吸いに来てしまった。
谷原 芽衣
谷原 芽衣
……はぁ
夜は日中に比べるとだいぶ涼しいけれど、たまに吹く風は生ぬるくジメッとしている。

ベンチに座り、ボーッと遠くを見つめながら、今日の練習のことを思い出してはまた落ち込む。

凛乃先輩の言葉を思い出すと、体は今すぐ寝たいくらいへとへとに疲れてるはずなのに、上手く寝付けなくて。

このまま朝になったらどうしよう……なんて、子どもみたいな心配をしてしまった。
谷原 芽衣
谷原 芽衣
……っ!?
───ザッと、地面を摺る音が聞こえて、肩がビクッと跳ねた。
谷原 芽衣
谷原 芽衣
……瀬戸くん?
瀬戸 一聖
瀬戸 一聖
何となく寝れなくてさ。
今日も谷原いるかなって。
……やっぱりいた
迷わず私の隣に腰掛けて、さっきの私と同じようにボーッと遠くを見つめる瀬戸くん。
瀬戸 一聖
瀬戸 一聖
で?谷原はなんかあった?
谷原 芽衣
谷原 芽衣
え?
瀬戸 一聖
瀬戸 一聖
元気ないから
谷原 芽衣
谷原 芽衣
……うん。
今日の練習中、ずっと上の空で、
凛乃先輩に怒られちゃったんだ
自嘲気味に笑う私を、隣で瀬戸くんが真っ直ぐ見つめるから、もうどこを見ていいのか分からなくて視線が泳ぐ。
瀬戸 一聖
瀬戸 一聖
……そっか
谷原 芽衣
谷原 芽衣
もうすぐ大事な大会控えてるのに
……当たり前だよね
瀬戸 一聖
瀬戸 一聖
仕方ないって。
俺たち、人間だもん
谷原 芽衣
谷原 芽衣
……え?
瀬戸 一聖
瀬戸 一聖
調子が良い時もあれば、
もちろん悪い時もある。
ずっと頑張ってたらいつか壊れる
谷原 芽衣
谷原 芽衣
瀬戸くん……
正直、もっと厳しい言葉を予想していたから、思いのほか優しい言葉に拍子抜けしてしまった。

かと思えば、私に向けられていた瀬戸くんの優しい瞳が、ふっと逸らされて───。
瀬戸 一聖
瀬戸 一聖
……俺、振られたよ
谷原 芽衣
谷原 芽衣
……っ、
瀬戸くんがポツリと呟いた言葉に耳を疑った。
瀬戸 一聖
瀬戸 一聖
一聖の私に対する気持ちは
"恋愛感情"じゃなくて"憧れ"だ
……ってさ
瀬戸 一聖
瀬戸 一聖
なんだそれ……
そう続けて、がっくりと項垂れる瀬戸くんに、かける言葉が見つからない。
谷原 芽衣
谷原 芽衣
……ごめん、私っ、
瀬戸 一聖
瀬戸 一聖
フッ、なんで謝んの?
俺は今、谷原が隣にいてくれて
……すげぇ救われてるよ
瀬戸 一聖
瀬戸 一聖
ありがとう
瀬戸くんの言葉はどこまでも柔らかいのに、私の心をチクチクと突き刺すこの痛みは何だろう。

笑ってるのに、泣いてるような……

そんな瀬戸くんの気持ちを推し測ると、胸が潰れるくらい苦しくて、手の届かない胸の奥深くが、ズキズキと痛むのを感じている。