まだ、夢を見ているのかもしれない。
瀬戸くんが私を好きだと言ってくれたあの日から、今日でちょうど1週間が経った。
付き合ってからの瀬戸くんは、とにかく優しくて。
瀬戸くんの放つ甘々な雰囲気に、恥ずかしさから目を合わせることすら出来ない日々が続いている。
最近は、桔平は紬が来るのを本当は待ってるのかも?って思い始めた。
じゃなきゃおかしくない?
いくら桔平が能天気とは言え、告白はバッサリ断ってるって聞いたし。
桔平が"恋"って自覚してないだけで、本当は既に両思いって可能性が濃厚だと思うんだけど。
……そんなの聞いてないよ。
今日、体育なんてあったっけ?
やばっ、ジャージ忘れてきた……。
チア部の練習用ジャージじゃ、ダメかな。
……ダメだよね。
***
【桔平のクラス】
結局、桔平のジャージを借りることにしたのはいいけれど、幼なじみの特権を利用して、ちょっと紬に悪いことしちゃったな。
もしかして、桔平と紬……すごくいい感じなのでは?
紬と桔平のやり取りをドキドキしながら見守っていた私は、突然現れた瀬戸くんに腕を引かれて歩き出す。
***
【屋上】
屋上のフェンスに追いやられて、じわりじわりと詰め寄ってくる瀬戸くんに紬と桔平のやり取りを見守っていた時とは比べ物にならないドキドキが襲う。
瀬戸くんの言う「それ」と言うのは、私が抱き抱えている桔平のジャージ。
───ガシャン、とフェンスが音を立てて、私の顔の両脇に瀬戸くんが両手をついた。
怒ってるのとはまた違うけど、いつもの瀬戸くんよりずっと強引で……戸惑ってしまう。
必死にコクコク頷けば、瀬戸くんが「じゃあ」と続けて、顔を近づける。
視線が泳ぐ。
真っ直ぐ瀬戸くんを見つめ返すなんて、難易度が高すぎて……今の私には、
こ、これは……まさか、瀬戸くんが桔平にヤキモチ?
出会った頃は、凛乃先輩一色で。
冷たさすら感じた瀬戸くんが、今は私に対してこんなにも甘々な雰囲気を向けている。
それが嬉しくて、くすぐったくて、恥ずかしくて……どうしていいか分からない。
それはつまり……桔平は下の名前なのに、瀬戸くんは苗字だからってこと?
そ、そんなこと言ったら……
私の言葉の意味を理解したらしい瀬戸くんは、一瞬目を見開いて、すぐにフッと笑った。
その余裕が悔しい。
恥ずかしさから顔を手で覆えば、タイミングよく、授業開始のチャイムが鳴った。
クスリと笑う瀬戸くんは、まるで授業に間に合わないのが分かってたみたいに落ち着いている。
私をからかって楽しそうに笑う瀬戸くん。
仲良くなる前は超絶クールだと思ってたのに、今は全然そんなことなくて……。
真っ直ぐに気持ちを伝えてくれる一聖くんに、私も全力の愛を伝えてくから覚悟しててね!!
恋するみんなに、私からのエールが届きますように。
【END】
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。