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第20話

甘々な瀬戸くんは
3,114
2021/02/05 04:00
まだ、夢を見ているのかもしれない。

瀬戸くんが私を好きだと言ってくれたあの日から、今日でちょうど1週間が経った。

付き合ってからの瀬戸くんは、とにかく優しくて。

瀬戸くんの放つ甘々な雰囲気に、恥ずかしさから目を合わせることすら出来ない日々が続いている。
小早川 紬
小早川 紬
にしても、あの瀬戸くんを
ついに攻略しちゃうなんて……
谷原 芽衣
谷原 芽衣
こ、攻略……って
小早川 紬
小早川 紬
いいなぁ……
私も桔平くん攻略したい
谷原 芽衣
谷原 芽衣
でもさ……紬と桔平って、
ちゃんとした形ではないにしろ
本当は両思いなんじゃないの?
小早川 紬
小早川 紬
……えぇ、なんで?
谷原 芽衣
谷原 芽衣
だって、昼休みは毎日
ふたりで過ごしてるわけでしょ?
小早川 紬
小早川 紬
それは、私が押しかけるの知ってて
桔平くんが待っててくれるから
谷原 芽衣
谷原 芽衣
……そこだよね。
普通、気のない相手に
毎日毎日、昼休み捧げる?
最近は、桔平は紬が来るのを本当は待ってるのかも?って思い始めた。

じゃなきゃおかしくない?
いくら桔平が能天気とは言え、告白はバッサリ断ってるって聞いたし。

桔平が"恋"って自覚してないだけで、本当は既に両思いって可能性が濃厚だと思うんだけど。
小早川 紬
小早川 紬
……ん〜、でも相手は桔平くん。
イレギュラーがありそうで自信ないな
小早川 紬
小早川 紬
あ、やば!
次、体育じゃん!
芽衣、着替えに行こう!
谷原 芽衣
谷原 芽衣
え、体育……?
……そんなの聞いてないよ。
今日、体育なんてあったっけ?
やばっ、ジャージ忘れてきた……。

チア部の練習用ジャージじゃ、ダメかな。
……ダメだよね。
***

【桔平のクラス】
水上 桔平
水上 桔平
ほんっと、昔から抜けてるよな
谷原 芽衣
谷原 芽衣
桔平には言われたくないけど……
助かります
小早川 紬
小早川 紬
桔平くんのジャージ……
結局、桔平のジャージを借りることにしたのはいいけれど、幼なじみの特権を利用して、ちょっと紬に悪いことしちゃったな。
水上 桔平
水上 桔平
あ、紬ちゃんさ。
今日の放課後って、ヒマ?
小早川 紬
小早川 紬
え?
水上 桔平
水上 桔平
良かったら、遊びに行かない?
芽衣の送迎期間終わったら
ずっと誘おうと思ってて
谷原 芽衣
谷原 芽衣
桔平、それって……
デートの誘い?
水上 桔平
水上 桔平
……っ!?
ばっ、デートなんて言ったら
紬ちゃん気が重いだろ!
小早川 紬
小早川 紬
デ、デートが……いい!
桔平くんとデートしたい
水上 桔平
水上 桔平
……っ、
もしかして、桔平と紬……すごくいい感じなのでは?
瀬戸 一聖
瀬戸 一聖
……谷原、ちょっと来て
谷原 芽衣
谷原 芽衣
わっ、
紬と桔平のやり取りをドキドキしながら見守っていた私は、突然現れた瀬戸くんに腕を引かれて歩き出す。
***

【屋上】
谷原 芽衣
谷原 芽衣
せ、瀬戸くん?
屋上のフェンスに追いやられて、じわりじわりと詰め寄ってくる瀬戸くんに紬と桔平のやり取りを見守っていた時とは比べ物にならないドキドキが襲う。
瀬戸 一聖
瀬戸 一聖
……それ、着るつもり?
瀬戸くんの言う「それ」と言うのは、私が抱き抱えている桔平のジャージ。
谷原 芽衣
谷原 芽衣
あ、うん。
ジャージ忘れちゃって
瀬戸 一聖
瀬戸 一聖
俺が嫌だって言ったら?
谷原 芽衣
谷原 芽衣
え……
瀬戸 一聖
瀬戸 一聖
普通に考えて、
他の男のジャージとか
着られたら嫌なんだけど
───ガシャン、とフェンスが音を立てて、私の顔の両脇に瀬戸くんが両手をついた。
瀬戸 一聖
瀬戸 一聖
俺たち、付き合ってるんだよな?
怒ってるのとはまた違うけど、いつもの瀬戸くんよりずっと強引で……戸惑ってしまう。

必死にコクコク頷けば、瀬戸くんが「じゃあ」と続けて、顔を近づける。
谷原 芽衣
谷原 芽衣
……っ、
瀬戸 一聖
瀬戸 一聖
もっと、俺でいっぱいになってよ。
俺ばっか好きみたいで悔しい
谷原 芽衣
谷原 芽衣
そ、そんなこと……!
私だってすごく好きだよ
谷原 芽衣
谷原 芽衣
でも……いざ、こうして
瀬戸くんを前にすると……
は、恥ずかしくて……
視線が泳ぐ。
真っ直ぐ瀬戸くんを見つめ返すなんて、難易度が高すぎて……今の私には、
瀬戸 一聖
瀬戸 一聖
……俺、結構不安なんだけど。
谷原は付き合う前と変わらないし
俺の気持ちはどんどん大きくなるし
……水上にジャージ借りてるし
谷原 芽衣
谷原 芽衣
……っ、
こ、これは……まさか、瀬戸くんが桔平にヤキモチ?

出会った頃は、凛乃先輩一色で。
冷たさすら感じた瀬戸くんが、今は私に対してこんなにも甘々な雰囲気を向けている。

それが嬉しくて、くすぐったくて、恥ずかしくて……どうしていいか分からない。
瀬戸 一聖
瀬戸 一聖
ちゃんと、俺だけ見てて
谷原 芽衣
谷原 芽衣
せ、瀬戸くんしか見てないよ
瀬戸 一聖
瀬戸 一聖
……なら、
俺のことを名前で呼んで
谷原 芽衣
谷原 芽衣
え、な……なんで急に
瀬戸 一聖
瀬戸 一聖
幼なじみに負けるような
彼氏にはなりたくない
それはつまり……桔平は下の名前なのに、瀬戸くんは苗字だからってこと?

そ、そんなこと言ったら……
谷原 芽衣
谷原 芽衣
私だって、
幼なじみに負けるような
彼女にはなりたくないよ……
瀬戸 一聖
瀬戸 一聖
……っ!
私の言葉の意味を理解したらしい瀬戸くんは、一瞬目を見開いて、すぐにフッと笑った。

その余裕が悔しい。
瀬戸 一聖
瀬戸 一聖
……芽衣
谷原 芽衣
谷原 芽衣
……っ、
瀬戸 一聖
瀬戸 一聖
はい。
今度は、芽衣の番
谷原 芽衣
谷原 芽衣
〜〜っ、
そんな簡単に呼べないよ
恥ずかしさから顔を手で覆えば、タイミングよく、授業開始のチャイムが鳴った。
瀬戸 一聖
瀬戸 一聖
あーあ、授業始まっちゃったな?
クスリと笑う瀬戸くんは、まるで授業に間に合わないのが分かってたみたいに落ち着いている。
谷原 芽衣
谷原 芽衣
もしかして、最初から
サボるつもりだったの?
瀬戸 一聖
瀬戸 一聖
……言っただろ。
それ、着て欲しくないって
谷原 芽衣
谷原 芽衣
……っ、もう
瀬戸 一聖
瀬戸 一聖
んじゃ、
名前で呼ぶ授業始めますか
谷原 芽衣
谷原 芽衣
〜〜っ、い、意地悪っ
私をからかって楽しそうに笑う瀬戸くん。

仲良くなる前は超絶クールだと思ってたのに、今は全然そんなことなくて……。
谷原 芽衣
谷原 芽衣
〜〜っ、
一聖くん、大好き!!
瀬戸 一聖
瀬戸 一聖
……っ、!
真っ直ぐに気持ちを伝えてくれる一聖くんに、私も全力の愛を伝えてくから覚悟しててね!!






恋するみんなに、私からのエールが届きますように。


【END】

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