"私が応援したら恋が成就する"
……なんて、大嘘だ。
今、瀬戸くんに提案したジンクスを心底後悔している。
背中なんて押さなきゃ良かった。
応援なんてしなきゃ良かった。
こんなに、苦しそうな顔をさせるくらいなら……いっそ、ありったけのエールなんて送らなきゃ良かった。
視線を上げた瀬戸くんが、まっすぐ私を見つめる。力強くて、どこか冷たくて、だけど本当は優しいそのは瞳は、どこまでも瀬戸くんらしい。
ギューッと締め付けられる胸が、切なく痛む。
こんなにも瀬戸くんに真っ直ぐ想われてる凛乃先輩が正直羨ましい……なんて。
蓋をするって決めたのに、蓋をしきれない気持ちがムクムクと膨らむのを感じながら、私は精一杯笑う。
好きなら、そんなに簡単に……諦められない。口にしながら、ドキッとしたのは自分にも当てはまるからだ。
いつからだろう。
初めは、ただの憧れだったのに。
……クールで、だけどたまに友達と笑ってる瀬戸くんはいつも楽しそうで、気づけば目で追ってた。
凛乃先輩を一途に想ってることを知って、凛乃先輩に笑いかける優しい瞳に、いつか私にもこの顔で笑って欲しいなんて思った。
どうしよう、私───。
瀬戸くんのことが、すごく……好きだ。
***
───瀬戸くんと別れて1人部屋に戻れば、部屋を出る時は寝ていたはずの紬が、ベッドの上に座っていた。
合宿中は私と紬が相部屋で、部屋には2段ベッドが1つ。紬が上で、私が下。
申し訳なさそうに俯いてしまった紬に、首を振る。きっと、私が少なからず瀬戸くんに憧れていることを知っているからこそ、紬も複雑な気持ちなんだろう。
私の言葉に、項垂れてしまった紬を見て思わず吹き出してしまう。
紬は高校に入学してからずっと、私の幼なじみである水上 桔平のことが好きで、今まであの手この手で気を引こうと頑張っている。
サッカー部の中では、そこそこ人気があるみたいだけど……本人はどこまでも能天気で。
今のところ紬のアタックにも全く気付いてない様子。
上のベッドから降りて、私より先に私のベッドにダイブする紬。
……紬がいてくれて、良かったな。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!