第9話

芽衣の恋心
2,825
2020/11/20 04:00
"私が応援したら恋が成就する"
……なんて、大嘘だ。

今、瀬戸くんに提案したジンクスを心底後悔している。

背中なんて押さなきゃ良かった。
応援なんてしなきゃ良かった。

こんなに、苦しそうな顔をさせるくらいなら……いっそ、ありったけのエールなんて送らなきゃ良かった。
谷原 芽衣
谷原 芽衣
ごめん……私が、
ジンクスなんて提案したから
瀬戸 一聖
瀬戸 一聖
それは関係ない。
全部、決めたのは俺の意思だから
瀬戸 一聖
瀬戸 一聖
それに、
視線を上げた瀬戸くんが、まっすぐ私を見つめる。力強くて、どこか冷たくて、だけど本当は優しいそのは瞳は、どこまでも瀬戸くんらしい。
瀬戸 一聖
瀬戸 一聖
凛乃にとって弟でも、
俺にとっては姉なんかじゃない
瀬戸 一聖
瀬戸 一聖
振られてからも、
凛乃に対する気持ちは変わらない。
好きだからどこまでも追いかける
ギューッと締め付けられる胸が、切なく痛む。
こんなにも瀬戸くんに真っ直ぐ想われてる凛乃先輩が正直羨ましい……なんて。

蓋をするって決めたのに、蓋をしきれない気持ちがムクムクと膨らむのを感じながら、私は精一杯笑う。
谷原 芽衣
谷原 芽衣
……そうだよね。
好きならそんな簡単に
諦められないよ
谷原 芽衣
谷原 芽衣
瀬戸くんの気持ちが
凛乃先輩に届く日まで
私も応援してる!
好きなら、そんなに簡単に……諦められない。口にしながら、ドキッとしたのは自分にも当てはまるからだ。

いつからだろう。
初めは、ただの憧れだったのに。

……クールで、だけどたまに友達と笑ってる瀬戸くんはいつも楽しそうで、気づけば目で追ってた。

凛乃先輩を一途に想ってることを知って、凛乃先輩に笑いかける優しい瞳に、いつか私にもこの顔で笑って欲しいなんて思った。
瀬戸 一聖
瀬戸 一聖
……サンキュ、谷原
どうしよう、私───。
瀬戸くんのことが、すごく……好きだ。
***

───瀬戸くんと別れて1人部屋に戻れば、部屋を出る時は寝ていたはずの紬が、ベッドの上に座っていた。

合宿中は私と紬が相部屋で、部屋には2段ベッドが1つ。紬が上で、私が下。
谷原 芽衣
谷原 芽衣
紬、起きてたの?
小早川 紬
小早川 紬
芽衣が部屋出る音で目が覚めて。
……凛乃先輩に言われたこと
気にして落ち込んでるのかなって
すぐにあと追ったんだけど
谷原 芽衣
谷原 芽衣
……え?
小早川 紬
小早川 紬
瀬戸くん……
凛乃先輩が好きなんだね
小早川 紬
小早川 紬
ごめん、立ち聞きするつもりは
なかったんだけど……
申し訳なさそうに俯いてしまった紬に、首を振る。きっと、私が少なからず瀬戸くんに憧れていることを知っているからこそ、紬も複雑な気持ちなんだろう。
谷原 芽衣
谷原 芽衣
心配してくれてありがとね、紬
谷原 芽衣
谷原 芽衣
確かに柄にもなくちょっと凹んでる。
……練習中にボーッとしちゃったのも
瀬戸くんが凛乃先輩に告白するって
昨日、聞いてたからなんだ
小早川 紬
小早川 紬
そりゃ、上の空にもなるよ……
谷原 芽衣
谷原 芽衣
……凛乃先輩を好きだって知ってからも
瀬戸くんを知る度に気持ちは強くなって
自分でも正直どうしていいか分かんない
小早川 紬
小早川 紬
芽衣……
谷原 芽衣
谷原 芽衣
でもね、応援したい気持ちも本当なの。
……瀬戸くんの辛そうな顔じゃなくて
笑ってるところが見たいなぁって
小早川 紬
小早川 紬
相手が……
自分じゃなくても?
谷原 芽衣
谷原 芽衣
……うん
小早川 紬
小早川 紬
うぇ〜〜
私には絶対無理!
私の言葉に、項垂れてしまった紬を見て思わず吹き出してしまう。
谷原 芽衣
谷原 芽衣
大丈夫。
桔平は、今んとこ恋とは無縁だから
小早川 紬
小早川 紬
無縁じゃ困るの!
いい加減、意識してくれないと
卒業式が来ちゃうよ〜
紬は高校に入学してからずっと、私の幼なじみである水上 桔平みずかみ きっぺいのことが好きで、今まであの手この手で気を引こうと頑張っている。

サッカー部の中では、そこそこ人気があるみたいだけど……本人はどこまでも能天気で。

今のところ紬のアタックにも全く気付いてない様子。
谷原 芽衣
谷原 芽衣
恋って、思ってたより難しいんだね
小早川 紬
小早川 紬
……よーし!!
今日は芽衣のベッドで一緒に寝よ!
谷原 芽衣
谷原 芽衣
えぇ!?
絶対、暑いよ
小早川 紬
小早川 紬
いいの!
はい、決定〜〜!
上のベッドから降りて、私より先に私のベッドにダイブする紬。

……紬がいてくれて、良かったな。

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