雲一つない空は、快晴。
───カキーンッ
金属バットがヒット音を鳴らして、良く澄んだ青に、白いボールが一瞬光って見えなくなった。
空高く拳を突き上げた瀬戸くんに、心臓のもっとずっと奥の方が、キューッと甘く疼く。
すごいな。
瀬戸くんの活躍に嬉しそうな凛乃先輩の声は、遠く離れたマウンド上の瀬戸くんに届いていて、
凛乃先輩に向けて、嬉しそうにガッツポーズを作る瀬戸くんに、今度はズキッと胸が痛むのを感じたけれど、気付かないふりをした。
***
【練習試合 終了後】
6対2で練習試合に勝利した瀬戸くんたち野球部は、帰りのバスへと荷物を積み込んでいる最中らしい。
私たちチア部は、野球部用の大型バスの横に並んで停められたミニバスに乗り込んだ。
窓際の席から、野球部たちをぼんやり目で追っていた私は、
窓越しに、瀬戸くんと目が合った気がして、ひとり背筋が伸びる。
……いや、まさかね。
この距離で目が合うわけないか。
そう思っていたのに、
荷物を積み込み終えたらしい瀬戸くんが、チア部のミニバスに向かって駆けてくるのが見えて、ドッドッドッと心臓が一気に加速する。
そのまま、私の座っている席まで来ると、外から窓をコンコンと叩かれる。
"あ" "け" "て"
口パクでそう告げられて、私は慌てて窓を開けた。
フッと口角を上げた瀬戸くんに、トクンと心臓が波打つ。
凛乃先輩に向ける笑顔には程遠いけど、瀬戸くんが自分に笑いかけてくれている……ただそれが嬉しかった。
これでもかってくらいの笑顔で「おめでとう」を告げた私に「練習試合で大袈裟」と瀬戸くん。
だけど、その口元は緩みっぱなしで、"嬉しさ"が全然隠せていなかった。
***
【帰りのバスの中】
隣の席の紬に、瀬戸くんとの仲を説明しろとせがまれて、必死に言い訳を考える。
本当は"練習試合"じゃなくて、瀬戸くんの"恋"を応援してるんだけど。
ごめん、紬。
紬に嘘をついてしまった心苦しさを感じながらも、さすがに本当のことは言えなかった。
……前より瀬戸くんと話す機会が増えて、自然と目で追ってしまうことも増えた。
それはつまり、前よりずっと、私自身が瀬戸くんに惹かれているっていうことだ……。
瀬戸くんの恋を応援するって約束したのに、瀬戸くんの、凛乃先輩に対する想いを目の当たりにすると胸が苦しくなるのも、そのせい。
───この気持ちだけは、絶対に言えない。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。