涙ぐみそうになって、慌てて唇を噛み締める。
泣いちゃダメ。
分かってる。
勝手に好きになって、
勝手に凛乃先輩との恋を応援して、
勝手に苦しくなって、
勝手に勘違いしそうになって、
全部、私の勝手な片思い。
上手く笑えてたかな?
……きっと、下手くそだっただろうな。
***
朝、当たり前になりつつある桔平との通学時間。
桔平の話が頭に入って来ないくらい、今朝は頭がぼーっとしている。
久しぶりに、気分はどんより。
こんな日は、チアで体をいっぱい使って、汗を流してさっぱりして……そのまま疲れて眠ってしまいたい。
質問内容を繰り返す私に、バツが悪そうにそっぽを向く桔平。
……も、もしかして。
桔平も紬のこと……。
……最悪だ。
好きな人に他の人を紹介されるなんて、私が許さない。紬が傷つくことになるのは、自分が傷つくよりずっとずっと嫌だ。
私の迫力に負けて、数回繰り返し頷いた桔平。
能天気で恋愛に興味が無い桔平が、紬を好きにならないことに関しては、桔平が悪いわけじゃない。
だけど、桔平のことが好きな紬を、桔平が傷つけることになることだけは避けなくちゃいけない。
***
───数日後。
ここ数日、上手く笑えない。
部活ではミス連発で、おまけに大事な表情も作れず、おかげでコーチからは毎日怒られてばかり。
どう頑張っても笑う気分にはなれなくて、そんな私の様子を知ってか、ここ数日はパタリと"芽衣のジンクス"を頼ってくる人もいなくなった。
昼休みの屋上でひとり空を見上げていた私は、すぐ側まで来ていた瀬戸くんに全く気付かなかった。
私を心配してくれているのが伝わる瀬戸くんの声に、胸がキューッと締め付けられる。
まさか、瀬戸くんへの恋煩いで何にも手につかないなんて、言えっこない。
そう言って、手渡されたパンはクリームパンにチョコペンで絵が描かれているパンだった。
しかも……見れば、見るほど。
たらこ唇に、ニンニクを付けたような鼻。
見た目は絶対カツラなのに、本人曰く「月に2回、美容院でトリートメントしている」らしい我が校の名物教師。
化学のジョージ(庄司)にそっくりなゆるキャラパンに、思わず吹き出してしまう。
不器用な瀬戸くんの優しさが嬉しくて、自然と笑顔が込み上げてくる。
私を笑顔にするのも、笑顔を奪うのも、結局のところどっちも瀬戸くんなんだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。