瀬戸くんの頬についた土に気付いて、瀬戸くんに数歩近付いて手を伸ばしたところで、ハッと我に返る。
笑いながら練習着に視線を向ける瀬戸くん。
その笑顔が、少し前に比べてずっとずっと優しい気がして、勝手に胸がキュンとときめく。
……あぁ、困った。
好きになればなるほど、瀬戸くんがかっこよく見えて……これじゃあ、心臓がもたないよ。
桔平の声で、一気に現実の世界へと戻ってきた私は、そう言えば桔平と帰るところだったことを思い出した。
小さく瀬戸くんを振り返れば、瀬戸くんもまた小さく手を上げてくれた。
たったそれだけの事が、恋をしているととっても嬉しいことで、特別だったりするのはどうしてなんだろう。
そんなことを言いながら隣を歩く桔平の脳内は、ご飯一色。
花より団子って言葉は、もしや桔平のためにあるんじゃ?なんて心配する私を───。
背中から聞こえた瀬戸くんの声に、ドクンッと心臓が大きく波打つ。振り返った先で目が合って、また……ドクンッと心臓が波打った。
なんて学習能力のない心臓なんだ。
タイミングよく出てきた凛乃先輩に、瀬戸くんの意識は私から凛乃先輩へと移ってしまったのが分かった。
仕方ないとは思いながらも、やっぱり少し胸は痛むな。
私の横を通り抜けて、振り向くことなく帰っていく瀬戸くんと。
その後ろを、私たちを振り向きながら申し訳なさそうについていく凛乃先輩。
……このふたりもきっと、黄金比率だ。
***
【side一聖】
───帰り道。
隣には凛乃がいて、一日の中で俺が一番楽しみにしているはずの時間なのに。
なのに、なんで。
俺の頭の中は、別のことでいっぱいなんだろう。
隣のクラスの……水上 桔平だっけ。
谷原とどんな関係なんだ?
わざわざ放課後に迎えに来るくらいだから、ただの友達ってことはないだろうし。
じゃあ、なんだ?
……脳裏に焼き付く、谷原と水上の並んだ姿。
ふたりの関係性を考えると、なぜか胸が少しザワついた。
まるで、俺の凛乃に対する気持ちが本当の"好き"じゃないと言われたような気がして腹立たしかったけれど───。
なぜか、頭の中でパッと広がった谷原の笑顔が、そんな俺のイライラを鎮めてくれた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。