第16話
一方通行が苦しくて
───私と瀬戸くんの間を、夏の夕暮れの生ぬるい風が吹き抜ける。
並んで歩いているとは言え、お互いの間に人一人分ほどの距離があって、私にはそれが心の距離みたいに思えて、ちょっとだけ切ない。
しばらくは、なんてことない話をしながら歩いて、すぐに沈黙……。
桔平の時とは違って、「なにか話さなきゃ」と必死に頭の中で話題を探している。
凛乃先輩の言葉だと分かりつつも、瀬戸くんの口から出た「芽衣」に、心臓がドキッと音を立てた。
頬は燃えるように熱くて、きっと耳まで赤い。
熱をもつ頬を手で扇ぎながら「それにしても暑いね〜」と誤魔化す私に、瀬戸くんも同じく手で扇ぎながら頷いてくれる。
私の顔をチラッと確認して、またすぐに前を見すえる瀬戸くん。
瀬戸くんは野球部、桔平はサッカー部。
おまけに隣のクラスじゃ、元々知り合いでもない限り特別接点もない。
桔平からも特に瀬戸くんの話は聞かないし、瀬戸くんも桔平のことなんて知らないとばかり思ってたのに。
そう言って、フッと笑った瀬戸くんは「だから、」と続けて私を見る。
その優しい瞳に、思わず勘違いしてしまいそうになるくらい。
───ドキッ
やだな、もう。
優しい目で、そんな優しいこと言われたら……勘違いするなって言う方が難しい。
───なのに、
やっぱり、恋というのは、自分が思う以上に上手くはいかないものらしい。
好きな人に、他の人との恋を応援されることが……こんなに悲しくて、こんなに切なくて、こんなに苦しいなんて思いもしなかった。
私が桔平を想ってたって、瀬戸くんにとってはどうでも良くて、仮に桔平以外を想ってたって、瀬戸くんにとっては……。
そこまで考えて、考えることをやめた。
自分の中で、辛すぎる答えが出てしまったから。
───私は、瀬戸くんにとって恋愛対象外。