入学式で見かけたときは「きれいな顔の男の子だな」って思った。
同じクラスだってわかったら、ちょっと嬉しかった。
さらに、偶然隣の席。
そこからは偶然じゃなくて努力で同じ委員会になったり、同じ本を読んで話をあわせたりした。
あとちょっと。
ちょっとだけ手を伸ばせば、届くんじゃないかな。
今、私と彼は、それくらいの距離感にいる。
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人がまばらになった放課後の教室。
窓際で、校庭で準備運動をするサッカー部の動きをぼんやりと視界に入れている。
でも、意識は隣にいる一条くんに向いていた。
ふたりの間の距離は30センチくらい。
去年……入学したばかりの頃はこの倍は距離が開いていたから、かなり縮まったんだと思う。
私たちは学園祭実行委員。
本番は来週だしトップふたりのダウンは心配だけど、彼が言うように準備はものすごく順調だ。
一瞬、この「帰るか」の意味がわからなくてとまどっちゃった。
一緒に帰ろうっていう意味なのか、それじゃあ帰るねっていう意味なのか。
確かに「寄ろうよ」って言った。
これってやっぱり、一緒に帰ってくれるってことなんだ!
肩を並べて教室を出る私たちの距離は、また1センチ縮まったように思えた。
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グミをもしゃもしゃしながら話す尚美の言葉は、かろうじて聞き取れた。
それ、私のなんだけど……。
尚美は派手で軽い感じだけど、実はすごく信頼できる子。
中学校の頃に転校してきたんだけど、まさかこんなにも派手な感じになるとは思わなかったな。
私が同じクラスの一条朔也くんが気になるという話は、ずいぶん前から尚美にしてあった。
尚美は私たちとは別の学校だし、話しやすかったってのもある。
私のベッドに置いてあったくまのぬいぐるみを抱き上げて、大げさにぎゅーっと抱きしめる尚美。
見ていてちょっと恥ずかしい。
ふと、尚美が真剣な顔になった。
そう……一条くんはモテる。隣のクラスからよく会いに来る子もいるし……確かに、のんびりしていられないかも。
そう言うと、尚美は私の肩をぽんと叩いた。
私は……学園祭で告白する決心をした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。