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第1話

第1話 学園祭7日前
4,347
2019/04/17 09:01
入学式で見かけたときは「きれいな顔の男の子だな」って思った。

同じクラスだってわかったら、ちょっと嬉しかった。
さらに、偶然隣の席。
そこからは偶然じゃなくて努力で同じ委員会になったり、同じ本を読んで話をあわせたりした。

あとちょっと。
ちょっとだけ手を伸ばせば、届くんじゃないかな。
今、私と彼は、それくらいの距離感にいる。

一条朔也
一条朔也
倉野、今日って委員会ないんだって?
倉野瑞穂
倉野瑞穂
うん。委員長も副委員長もカゼなんだって
人がまばらになった放課後の教室。
窓際で、校庭で準備運動をするサッカー部の動きをぼんやりと視界に入れている。
でも、意識は隣にいる一条くんに向いていた。

ふたりの間の距離は30センチくらい。
去年……入学したばかりの頃はこの倍は距離が開いていたから、かなり縮まったんだと思う。
一条朔也
一条朔也
まあ、準備はかなり順調だし、なんとかなるよね
倉野瑞穂
倉野瑞穂
そうだね。今年は準備が早くて優秀だって先生が言ってたよ
私たちは学園祭実行委員。
本番は来週だしトップふたりのダウンは心配だけど、彼が言うように準備はものすごく順調だ。
一条朔也
一条朔也
それじゃ、帰るか
一瞬、この「帰るか」の意味がわからなくてとまどっちゃった。
一緒に帰ろうっていう意味なのか、それじゃあ帰るねっていう意味なのか。
一条朔也
一条朔也
そうだ、おもしろい新刊出てるかもしれないから本屋寄ろうよ
確かに「寄ろうよ」って言った。
これってやっぱり、一緒に帰ってくれるってことなんだ!
倉野瑞穂
倉野瑞穂
うん、行こう!
肩を並べて教室を出る私たちの距離は、また1センチ縮まったように思えた。

柊尚美
柊尚美
告白するなら、やっぱり学園祭の日じゃね?
グミをもしゃもしゃしながら話す尚美の言葉は、かろうじて聞き取れた。
それ、私のなんだけど……。
倉野瑞穂
倉野瑞穂
私の買い置きのお菓子、いつも勝手に消費するのやめてよね
柊尚美
柊尚美
相談料!
わざわざ親友が部屋まで訪ねてきてるんだから、おもてなしってことで
尚美は派手で軽い感じだけど、実はすごく信頼できる子。
中学校の頃に転校してきたんだけど、まさかこんなにも派手な感じになるとは思わなかったな。
私が同じクラスの一条朔也くんが気になるという話は、ずいぶん前から尚美にしてあった。
尚美は私たちとは別の学校だし、話しやすかったってのもある。
柊尚美
柊尚美
それで、告白はどーするの?
柊尚美
柊尚美
ふたりとも学園祭実行委員なんでしょ?
準備の苦労を乗り越えて当日……盛り上がったところで告白!
私のベッドに置いてあったくまのぬいぐるみを抱き上げて、大げさにぎゅーっと抱きしめる尚美。
見ていてちょっと恥ずかしい。
柊尚美
柊尚美
これ、控えめに言って最高じゃない?
倉野瑞穂
倉野瑞穂
そう……かなぁ
柊尚美
柊尚美
彼、モテるんでしょ?
ふと、尚美が真剣な顔になった。
そう……一条くんはモテる。隣のクラスからよく会いに来る子もいるし……確かに、のんびりしていられないかも。
柊尚美
柊尚美
のんびりしてると、とられちゃうよ。
いい男ならなおさら
そう言うと、尚美は私の肩をぽんと叩いた。
柊尚美
柊尚美
あんた、ちゃんと幸せになりなよ。
あんたが幸せじゃないと、周りも幸せにならないんだから
倉野瑞穂
倉野瑞穂
ありがと、尚美
私は……学園祭で告白する決心をした。

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