学園祭が終わった夜だったはずなのに、気が付いたら学園祭一週間前の朝だった。
頭の中で状況を言葉にしてみるけど、わけわからない。
長い夢を見ていたのかな……。
とにかく朝だから学校へ行く。
そして1時限目、2時限目と過ごすうちに、どんどんこわくなってきた。
だって……授業の内容、聞き覚えがあるんだもん。
『時間を戻してよ!』
学園祭の後……思い出すとちょっと恥ずかしくなるけど、私は確かにそう叫んだ。
まさか、まさかまさか、本当に時間が戻ったの!?
いろいろ考えているうちに、気が付いたら授業が終わって放課後になっていた。
同じ委員会の後輩が、教室を訪ねてきてそう言った。
一条先輩にも今日はお休みだって伝えてくださいね、と言い残して、後輩は教室を出て行った。
やっぱり、私はこの日のことを全部知ってる。
心臓がバクバクして、頭がふわふわする。
私は風にあたるために窓際に立ち、校庭で準備運動をするサッカー部をぼーっと眺めていた。
隣に、一条くんがやって来た。
私、彼が次に言う言葉がわかる。
まるで台本を読むように、自分が“言う予定”と思われるセリフを並べていく。
ふと、私は気が付いた。
本当に時間が戻ったのだとしても、すごく正確な正夢を見たのだとしても……。
これから起こることを知っているということは……。
大沢さんと一条くんが付き合うのを止めて、私が一条くんと付き合えるかもしれない……?
その可能性に気が付いた私は、ゾクッと背筋に寒気が走った。
本当にそれができるなら……私、失恋しないで済むかも……!
私が知っているとおり、一条くんは本屋さんに誘ってくれた。
一条くんと肩を並べて教室を出る。
私は意識して、私が知っているこの場面よりも一歩、彼との距離を縮めた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。