3人でキャンプファイヤーを眺めた学園祭の翌日。
つまり……火事が起こる当日。
私と大沢さんは、学校を休んで待ち合わせた。
私たちはうなずき合い、行動を開始した。
必ず……火事の原因を突き止める!
確か、一条くんの家にはお母さんがいるはず。
だから火事の原因が、お母さんの失敗なのか、放火なのかがわからない。
そこで私たちは、見回りと見守りに分かれることにしたのだった。
時間は、午後2時。
少し、緊張してきた。
スマホを左手に握りしめて、一条くんの家の裏側を歩いていた……その時だった。
前方に、学校の制服を着た男の子がいる。
知らない学校の制服だ。
ということは、このあたりの学校じゃないんだろう。
私も人のことを言えないけど、この時間に歩いているっていうことは、学校をサボっているっていうことだ。
男の子は足を止めると、ポケットから何かを取り出した。
……ライターだ!
火がつくことを確かめると、今度はカバンから雑誌を取り出す。
読むためじゃなさそう。
ライターの火が、雑誌に近付く。
これって、やっぱり……!
私は、思い切って声を張り上げた……つもりだったんだけど、緊張のせいでかすれてしまった。
それでも、男の子の耳には届いたようで、彼は慌てて私を振り返った。
彼と目が合う。
……すごく冷たい目をしている。
恨み?憎しみ?
マイナスの感情が伝わってくる目だった。
彼は、火のついた雑誌をその場に落として、走り出した。
あっという間に走り去ってしまい、とても追いつけそうもなかった。
それよりも今は、燃えている雑誌を何とかしないと!
おそらく、通話アプリで聞いてくれていたであろう大沢さんが駆けつけてくれた。
足で踏んだり、ペットボトルの水をかけたりして、雑誌の火を消し止める。
私たちは念のため、日が暮れるまで一条くんの家を見守った。
見守っている間に一条くんやその妹が、無事に帰宅するところも見届けた。
……火事は、回避されたんだ!
大沢さんが、涙ぐんで抱きついてきた。
私も、思いっきり抱き返す。
そう、私は明日、何が起こるかまったく知らない。
当たり前のことなのに、それがすごく楽しみだった。
●
火事を防いだ、次の日。
私にとっては、未知の新しい日。
この日は学校がお休みだけど、一条くんと大沢さんに、本が読めるカフェに行こうと誘われた。
ちょうど、昨日あの男の子を見た場所を通りがかった時……。
電柱の影から姿を見せたのは、まぎれもないあの男の子だった。
私はそれ以上、言葉を続けることができなかった。
胸が、熱い。
男の子はそう言うと、どこかへ行ってしまったようだ。
目を必死に開いて、状況を確認する。
私は、自分の胸に包丁が突き刺さっているのを、まるで他人事のように眺めていた――。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!