第13話

第13話 繰り返す運命の終わりに
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2019/07/10 09:09
3人でキャンプファイヤーを眺めた学園祭の翌日。
つまり……火事が起こる当日。
大沢かおり
大沢かおり
倉野さん、こっち!
倉野瑞穂
倉野瑞穂
大沢さん、お待たせ
私と大沢さんは、学校を休んで待ち合わせた。
大沢かおり
大沢かおり
とうとう、学校を休んじゃったわね
倉野瑞穂
倉野瑞穂
でも、もうこうするしかないもんね
大沢かおり
大沢かおり
学校に行った後だと、どんなに頑張っても間に合わなかったもの
倉野瑞穂
倉野瑞穂
それじゃ、私は一条くんの家の周りを歩き回るね
大沢かおり
大沢かおり
お願い。私は、一条くんの家から目を離さないようにしているから
大沢かおり
大沢かおり
通話アプリ、常に繋げておくのを忘れないで
倉野瑞穂
倉野瑞穂
うん。何かあったらお互いすぐに連絡ね!
私たちはうなずき合い、行動を開始した。
必ず……火事の原因を突き止める!

確か、一条くんの家にはお母さんがいるはず。
だから火事の原因が、お母さんの失敗なのか、放火なのかがわからない。
そこで私たちは、見回りと見守りに分かれることにしたのだった。
倉野瑞穂
倉野瑞穂
そろそろ……なのかな
時間は、午後2時。
少し、緊張してきた。
スマホを左手に握りしめて、一条くんの家の裏側を歩いていた……その時だった。
倉野瑞穂
倉野瑞穂
……誰?
前方に、学校の制服を着た男の子がいる。
知らない学校の制服だ。
ということは、このあたりの学校じゃないんだろう。
私も人のことを言えないけど、この時間に歩いているっていうことは、学校をサボっているっていうことだ。

男の子は足を止めると、ポケットから何かを取り出した。

……ライターだ!

火がつくことを確かめると、今度はカバンから雑誌を取り出す。
読むためじゃなさそう。
ライターの火が、雑誌に近付く。


これって、やっぱり……!
倉野瑞穂
倉野瑞穂
な、何してるの!?
私は、思い切って声を張り上げた……つもりだったんだけど、緊張のせいでかすれてしまった。
それでも、男の子の耳には届いたようで、彼は慌てて私を振り返った。

彼と目が合う。

……すごく冷たい目をしている。
恨み?憎しみ?
マイナスの感情が伝わってくる目だった。
放火犯
……!
彼は、火のついた雑誌をその場に落として、走り出した。
倉野瑞穂
倉野瑞穂
ちょっと待って……っ!
あっという間に走り去ってしまい、とても追いつけそうもなかった。
それよりも今は、燃えている雑誌を何とかしないと!
大沢かおり
大沢かおり
倉野さんっ!
おそらく、通話アプリで聞いてくれていたであろう大沢さんが駆けつけてくれた。

足で踏んだり、ペットボトルの水をかけたりして、雑誌の火を消し止める。
倉野瑞穂
倉野瑞穂
放火魔……なのかな。
男の子が、雑誌に火をつけてたの
大沢かおり
大沢かおり
もうしばらく、一条くんの家を見守ってみましょう。
このまま何も起こらなければ……
私たちは念のため、日が暮れるまで一条くんの家を見守った。
見守っている間に一条くんやその妹が、無事に帰宅するところも見届けた。


……火事は、回避されたんだ!
大沢かおり
大沢かおり
倉野さん!
大沢さんが、涙ぐんで抱きついてきた。
私も、思いっきり抱き返す。
倉野瑞穂
倉野瑞穂
やったね……やったね……!
大沢かおり
大沢かおり
あたしたち、やっと明日に進めるのね
そう、私は明日、何が起こるかまったく知らない。
当たり前のことなのに、それがすごく楽しみだった。



火事を防いだ、次の日。
私にとっては、未知の新しい日。

この日は学校がお休みだけど、一条くんと大沢さんに、本が読めるカフェに行こうと誘われた。

ちょうど、昨日あの男の子を見た場所を通りがかった時……。
放火犯
……あんた
電柱の影から姿を見せたのは、まぎれもないあの男の子だった。
倉野瑞穂
倉野瑞穂
あなた、昨日の……
私はそれ以上、言葉を続けることができなかった。
胸が、熱い。
放火犯
あんたが……止めるから……いけないんだ!
男の子はそう言うと、どこかへ行ってしまったようだ。
目を必死に開いて、状況を確認する。

私は、自分の胸に包丁が突き刺さっているのを、まるで他人事のように眺めていた――。

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