血って、生ぬるいんだなぁ……。
胸からあふれる血に触れて、私はそう思った。
立つ力が失われて、地面に倒れる。
なんとか目を開けると、尚美が駆け寄ってくるのが見えた。
尚美は、制服に血が付くのもかまわず私を抱き起こす。
そして、意外なことを言った。
尚美の口から、時間のループという言葉が出て、私はとても驚いた。
でも、すでに驚きを体で表現する元気はない。
尚美のお母さん……確か、数年前に亡くなったって聞いたけど……。
――思い出した。
私、火事の日の夜に、死んじゃおうとしたことが、確かにある。
時間のループに気付いてからは、もしもできなければ死のうと思ってた。
……どうして、このことだけ忘れちゃってたんだろう。
きっと、ループを認識していても、記憶を完全に持ち越しているわけじゃないんだろう。
よく考えると、思い出せないことも多い。
尚美は、悔しそうにうつむく。
一番最初のループは、まだ火事を知る前のことだった。
そのタイミングでは、時間を戻る必要ななかったんじゃないかな。
思い返すと、私がループする瞬間にはいつも尚美が近くにいた。
この一週間をどれだけやり直しても、きっと私は助からない。
むしろ、一条くんの家族だけでも助かった“今”を続けていくべきだろう……。
尚美は、泣きながら私の言葉を繰り返している。
そして……。
次の瞬間、私の目の前は真っ白になった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!