第14話

第14話 時間を戻す力
1,228
2019/07/17 09:09
血って、生ぬるいんだなぁ……。
胸からあふれる血に触れて、私はそう思った。
立つ力が失われて、地面に倒れる。
柊尚美
柊尚美
……瑞穂っ!
なんとか目を開けると、尚美が駆け寄ってくるのが見えた。
尚美は、制服に血が付くのもかまわず私を抱き起こす。
そして、意外なことを言った。
柊尚美
柊尚美
またダメだった……
柊尚美
柊尚美
どうして、運命は変えられないんだろう
倉野瑞穂
倉野瑞穂
……尚美?なに、言ってるの?
柊尚美
柊尚美
アタシ、時間をループしていたんだよ。
あんたを助けるために
尚美の口から、時間のループという言葉が出て、私はとても驚いた。
でも、すでに驚きを体で表現する元気はない。
柊尚美
柊尚美
瑞穂もかおりも、時間をループさせる力があるって思ってたでしょ
柊尚美
柊尚美
でもね。あんたたちにそんな力はないんだよ。全部、アタシのしわざ
倉野瑞穂
倉野瑞穂
そん……な……
柊尚美
柊尚美
もともと、アタシの母さんがへんな家系でさ。
母さん自身は遺伝しなかったんだけど、ひとつ飛ばしてアタシが受け継いじゃったっぽい
尚美のお母さん……確か、数年前に亡くなったって聞いたけど……。
柊尚美
柊尚美
小学生の頃、テストの前の日に戻したことがあるんだ
倉野瑞穂
倉野瑞穂
尚美らしい……ね
柊尚美
柊尚美
アハハ。で、バカ正直に母さんに話したら、すげー怒られた。この力の意味とか難しい話を長々とされたんだよ。
そして、もう絶対に力を使わないって約束した
柊尚美
柊尚美
それ以来、一度もループはしなかった。母さんが病気で死んでもね
倉野瑞穂
倉野瑞穂
それじゃあ……なんで……
柊尚美
柊尚美
瑞穂……あんたが、死んだんだよ
倉野瑞穂
倉野瑞穂
……え
柊尚美
柊尚美
転校してきて、ひとりぼっちだったアタシにとって……あんたは最初に声をかけてくれた、すごく大事な友達なんだ
柊尚美
柊尚美
そんな友達が死んだら……そりゃナントカしようと思うじゃん
倉野瑞穂
倉野瑞穂
私……
柊尚美
柊尚美
母さんが死んだ時に戻らなかったのを後悔していたし、もうそんな思いはしたくなかったんだ
倉野瑞穂
倉野瑞穂
尚美……私の……ために?
柊尚美
柊尚美
最初は、火事であいつが亡くなったことで……後を追った
倉野瑞穂
倉野瑞穂
一条くん……だね
柊尚美
柊尚美
一緒に火に飛び込むパターンもあったよ。
火事の翌日に行方不明になったりね
柊尚美
柊尚美
いろんなパターンで、あんたが死んじゃうのを見てきたんだ
柊尚美
柊尚美
あんたは、学園祭の2日後までに死ぬ。
原因は全部、一条の家の火事なんだと思う
――思い出した。
私、火事の日の夜に、死んじゃおうとしたことが、確かにある。
時間のループに気付いてからは、もしもできなければ死のうと思ってた。
……どうして、このことだけ忘れちゃってたんだろう。

きっと、ループを認識していても、記憶を完全に持ち越しているわけじゃないんだろう。
よく考えると、思い出せないことも多い。
倉野瑞穂
倉野瑞穂
どれくらい……やり直したの?
柊尚美
柊尚美
ハハ、もう覚えてないよ
柊尚美
柊尚美
いろんなことを試したよ。
何がきっかけで運命が変わるかわからなかったから
柊尚美
柊尚美
あんたと遊ぶタイミングとか、電話するタイミングとか……
柊尚美
柊尚美
あんたには悪いと思ったけど、かおりにアドバイスして一条と付き合えるように持って行ったこともある
倉野瑞穂
倉野瑞穂
そんなことも……
柊尚美
柊尚美
まあ、結局それでもダメで、あんたに辛い思いをさせるだけになっちゃったけど。
かおりも、たぶんそれがきっかけでループに気付いたんだろうね
尚美は、悔しそうにうつむく。
柊尚美
柊尚美
アタシが何度見回っても、放火魔に会えなかったっていうのに……
倉野瑞穂
倉野瑞穂
でも……それならどうして……一番最初の時……
一番最初のループは、まだ火事を知る前のことだった。
そのタイミングでは、時間を戻る必要ななかったんじゃないかな。
柊尚美
柊尚美
あんたが失恋したパターンの時は、早めにループさせちゃったんだよね。
あんたも辛そうだったし、それに付き合えた時よりも早く死んじゃったこともあったんだ
倉野瑞穂
倉野瑞穂
……そう、だったんだ
柊尚美
柊尚美
でも、それが失敗だったよ。
あんたはループに気が付くし
倉野瑞穂
倉野瑞穂
大沢さんも……
柊尚美
柊尚美
もう母さんに聞くことができないからわからないけど、アタシと近かったりしたことが原因じゃないかな
思い返すと、私がループする瞬間にはいつも尚美が近くにいた。
柊尚美
柊尚美
痛かったでしょ……。でも、もう大丈夫
柊尚美
柊尚美
もう一度、時間を戻すから……
倉野瑞穂
倉野瑞穂
ま、って……!
倉野瑞穂
倉野瑞穂
お願い……もう、時間を、戻さないで
柊尚美
柊尚美
何言ってるの!あんた、死んじゃうよ?
倉野瑞穂
倉野瑞穂
でも……一条くんの家は、助かった
倉野瑞穂
倉野瑞穂
火事……起きなかったの……初めて、なんだよね?
倉野瑞穂
倉野瑞穂
せっかく、火事を回避できたから……このままで……
柊尚美
柊尚美
ダメだって!そんなの!
アタシ、何のために……
倉野瑞穂
倉野瑞穂
仕方ない……よ。運命は、この一週間より……もっと早くから、決まってたんだよ
この一週間をどれだけやり直しても、きっと私は助からない。
むしろ、一条くんの家族だけでも助かった“今”を続けていくべきだろう……。
柊尚美
柊尚美
もっと前……から……
尚美は、泣きながら私の言葉を繰り返している。
そして……。
柊尚美
柊尚美
そっか。わかったよ……
倉野瑞穂
倉野瑞穂
尚美……私のために、ありがと……
柊尚美
柊尚美
あんたが、ひとりぼっちのアタシと友達になってくれて、嬉しかったよ
柊尚美
柊尚美
だから……
柊尚美
柊尚美
幸せになるんだよ
次の瞬間、私の目の前は真っ白になった。

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