私にとっては2回目の学園祭当日。
ゆうべのうちにクラスメイトに電話をかけ、本来はお昼ごろだったはずのわたあめ屋の店番を、朝イチにしておいた。
交代したことで、私と一条くんは同じ時間の店番になれた。
その一条くんは、ヒマそうに背伸びをしている。
飲食店コーナーが本気を出すのは、きっとお昼からだろうな。
美術部さんごめんなさい。私、本当は絵のことぜんぜんわかりません。
でも、一条くんを誘うのにカッコつけちゃった。
さすがは一条くん。私みたいに無理しなくても、絵画に興味があるんだね。
私と一条くんはきっちり1時間の店番を終えて、次の当番に引き継ぎをした。
そして、美術部の絵画や文芸部の小説、後輩のクラスのおばけやしきをふたりで楽しんだ。
実行委員として、いろんなチームがぎりぎりまで頑張っているのを見てきた。
成功を見ると、やっぱりこみ上げてくるものがある。
やがて日が傾き、校庭では後夜祭の準備が始まった。
校庭の真ん中にくみ上げられたキャンプファイヤーが、着火の時を待っている。
そして私たちも校庭の隅で、着火を待っていた。
突然の言葉に、おどろいて声がうわずっちゃった……。
委員長がマイクを持って、朝礼台に上がった。
キャンプファイヤーが始まるんだ。
私は、覚悟を決めた。
心臓がドキドキしているのかすら、もうわからない。
気を付けていないと、意識がどこかに飛んでいきそう。
でも……今しかない。
言った!
言い切った!
そして、言い切ってから不安になった。
この場にいるのを大沢さんと交代しただけで、私の告白がうまくいく保証なんてどこにもないじゃない!
言い終わってから気が付くなんて……。
……断られたらどうしよう。
そしたら、何度やり直しても無理ってことだよね。
永遠のような数秒の後……。
一条くんの手が、私の手に触れる。
反射的に一条くんの顔を見上げた、そのとき……。
キャンプファイヤーがオレンジ色に燃え上がった。
照らし出された一条くんの顔は、とってもやさしい。
ふと、視界の隅に、こちらに視線を向けている人がいることに気が付いた。
あれは……大沢さんだ。
どこかさみしそうに……私たちから視線を外して、キャンプファイヤーを見ていた。
私の“時”はようやく、学園祭の次の日へと進んだ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。