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第1話

ハツコイと檸檬と
1,997
2022/09/03 12:35


*カミサマなんていない*





空を見上げると、上から迫り来る黒い影。



地面に到達するまでそう時間はかからなかった



一瞬にして“それ”は赤黒い液体に塗れた



“それ”を自分の友達と認識したのは



あれから数秒後だった



高く響き渡る悲鳴に、騒音。



救急車のサイレンは時間とともに近づいてくる



俺はただ、呆然と



それを見ていることしかできなかった




*



昼休みの始まりを告げるチャイムが



校内に鳴り響く



俺はそのチャイムを聞くなりなんなり



大きなため息をひとつ。

ラウール
はぁ…。


クラスメイトたちが何人かで集まり



グループになって弁当を広げている一方、



俺は教室の隅っこで弁当を取り出す



なぜこんなことになっているかなんて



自分が1番わかっている



まぁ、こんな生活慣れたもんだよ。



俺はもくもくと弁当の包みを開く



なんか気分転換したいなぁ、、



あ、今日は教室じゃなくて屋上で食べようかな?



晴れてるし暖かいし気晴らしにでも行ってみるか



俺は出しかけの弁当を片付け、席を立った




*



屋上には先客がいた



黒髪に、高身長の男子生徒が1人。



180はゆうに超えているだろう



学年色であるスリッパは



俺が履いている緑のと違い



彼のは青色だから先輩なんだと思う



ぼうっとフェンスの向こう側を



眺めているかと思えば長い手足を引っ掛けて



それを登り始めた



それを見て、一瞬過去のことをフラッシュバックした



あの時、俺は何も出来なかったんだ。



ああやって俺のトモダチはーーーーー


ラウール
は!?待って、ダメですっ!!


俺は思わず飛び出しており



登りかけていた彼の身体を無理矢理下ろした



よかったぁ、ちゃんと助けれた。



安堵していられるのもその瞬間だけだった


ラウール
なにしてーーーー
目黒 蓮
なにすんだよっ!!


彼は俺の手を思い切り振り払う

ラウール
っ……!!
目黒 蓮
ーーーーて
ラウール
え……?
目黒 蓮
死なせて、おねがい


そう言う彼の声は酷く震えていた



よく見ると薄汚れた制服に、



落書きされて消えきらなかったスリッパ。



あぁ、この人はいじめにあってるんだ



一瞬にして俺は気づいた

ラウール
1回落ち着いてください、話はあとです




*


目黒 蓮
カミサマなんていないんだ


ぽつり、とそう言った彼は



クールで大人びた外見から



想像がつかないほど幼い声だった

ラウール
…カミサマ?
目黒 蓮
みんな敵。クラスメイトだって、両親でさえも、俺から離れてく


俺、何にもしてないのに



と先輩は体育座りで蹲る

目黒 蓮
……だだ、少し人と違うものが見えるだけ


ぼそっと呟いた意味深なコトバ。



人と違うものが見える?



じゃあ何が見えるというのだろうか

ラウール
人と、違うもの?
目黒 蓮
この世の中にはね、
3種類の“ヒト”がいるんだよ


1つは普通に生きているヒト。



これはみんなが見えていて、



よく知ったカタチをする人間



一般的に見えるのはこの1種類のヒトだけだと言う







しかし、先輩にはあと2種類見えているのだ






もう1つは既に亡くなったヒト。



この世に未練があるなどの理由があって



成仏できない霊がいるんだ



何もしてこない、無害な霊はいるけど



怨霊などの危害を加えてくる霊のほうが多い






最後の1つは生き霊。



これがほんとタチ悪くて、



ほぼほぼが恨みつらみだ



見える人に攻撃してくることもしばしばある



目黒 蓮
子供の時ってさ、思ったことすぐ口にしちゃってた
ラウール
……?いい事じゃん
目黒 蓮
ううん、だめなんだ
ラウール
…なんで?
目黒 蓮
そこに黒い人影がいるよ、なんて言ってもオトナは信じてなんかくれなかった


語彙力のない口であったが、いくら説明しても



オトナには伝わらない



友達にだって引かれる始末




『蓮くん、おかしいよ』




そう友達に言われたのがきっかけに



俺は話すことをやめた



そのせいか、友達は1人2人といなくなり



いじめが始まった



両親からも“悪魔の子だ”と暴力を受けた

目黒 蓮
お前はさ


顔を上げて先輩は言った

目黒 蓮
俺といて嫌じゃねーの
ラウール
嫌じゃないですよ、むしろ居心地いい
目黒 蓮
気味悪いとか思わないわけ
ラウール
そんなこと、思うわけないじゃないですか


初めはどうせいなくなるんだろ、



と怪訝そうな顔をしていた先輩だったが



びっくりしたように眠たげな目を見開いて



お前変わった奴だな、とだけ言った


ラウール
俺、友達いないんです
目黒 蓮
ふーん…
ラウール
じゃあ先輩が友達になってくれますか?


は?と先輩は納得していないようだが



そのまま俺は続ける

ラウール
俺、ラウールっていいます。先輩は?
目黒 蓮
め…目黒……。
ラウール
んへへ、初めて友達できた。先輩だけど


また明日もここに来ていいですか?



なんて聞けば、



勝手にしろ、と先輩はそっぽを向いた



これは行っていいやつだよね



今日のこともあって心配だし…



俺は立ち上がってこう言った

ラウール
じゃーまた明日ね、目黒先輩


ばいばい、と手を振ると



ちらり、とこちらを見てすぐ視線を戻した

目黒 蓮
……変なやつ。


そうぼそりと呟いた目黒の声は



嬉しそうに鼻歌を歌いながら出ていくラウールには



聞こえるはずもなかった






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