前の話
一覧へ
次の話

第1話

ベース251✝︎(2023/4/9修正)
150
2023/04/09 00:46
もう二度と見たくないと思ったものがある。

無慈悲にのしかかる重い鎧を抱えて眺めた、ばらばらになった黒と赤。

放り投げたように地面に転がった大きな盾。
彼らを象徴する「GR」の文字と髑髏の横顔が、なんだったのか分からないもので汚れて。


どうして、と問えば、貴方は何でもないみたいに「これが俺達の仕事だ」って言うんだろう。

──私を生かすことが、人類のためになると。


だから私は死ねない。死んじゃいけない。

人類が勝利するまで、何度も。
プライマーを倒すまで、何度も。何度も何度も。
歴史改変をされようが。希望が見えなくても。

何度も何度も何度も何度も何度も。


…何度、でも。










「生きて会えたな。どれだけほっとしたか、分かるか?」

聞き慣れた声。目の前で心底安心したような表情で語りかけてくる男性は、前回と同じ台詞を口にした。

「──プロフェッサーこそ。...また、ここに来たんですね」
「ああ。ずっと最前線か...よく無事でいたな。しかもついに...成し遂げた。コマンドシップを落とし、世界を救った。長い戦いだったな」

それは、私が三年前に成し遂げた戦果の話。

世界は救われた。

一旦は。


私が黙り込んでいると、プロフェッサーが話を続ける。

「私の作った武器は役に立ったか?...話すことがたくさんある。何から...」

そこまで言って、プロフェッサーは腰に手を当てて立ったまま俯いた。
...それだけで全て分かった。

──彼も、今回も失敗してしまったのだ。

その時、廊下の奥から足音が近づいてきた。
私たちの上官となる人だ。これから私たちはあの人の指揮下に入って戦うことになる。

「大尉が来た。後で話そう。まだ時間はある」

そう、時間はある。
「訪問者」がやって来るまで。
その「翌日」、世界が変わってしまうまで。

そして「くだんの日」、作戦の決行の日まで──。





「ベース251✝︎」



──2022年。
地球軌道上に突如として宇宙船団が出現。
人類への攻撃を開始した。

人類には想像も出来ないようなオーバーテクノロジーを有していた宇宙船団。

人類はなすすべも無く負けた。
わずかな生き残りの人間だけを地下に残して。


人類は、侵略者を「プライマー」と名付けた。


この時から、人類とプライマーの長い、永い永い戦いが始まったのだ。



私はその日、たまたま地球防衛軍(Earth Defense Force)──一般的に「EDF」と呼ばれている国家の枠組みを超えた世界規模の軍隊の基地にいた。

もちろん私は軍人ではない。
「フライトダンサー」と言う、空を飛ぶことが出来る機械「フライトユニット」を体に装着してパフォーマンスを行う仕事をしていた。
その日はEDFが行っていた地域交流会の催し物のひとつとして私が呼ばれ、ちょうど基地の案内を受けていたところだったのだ。

サイレンの鳴り響く中、案内役であったお兄さんと私は運良く近くを通っていたEDF隊員に保護され避難することが出来た。

...それから今この時まで、地下に逃げ延びた人々は地底人となった。

人類は既に敵勢力と戦う術を持たず、強固なシェルターに守られるだけの生活を三年間続けていた。



──そんなある日。


「...どういうことだ?空の色がどんどん変わっていくぞ!」
「大変だ!新たな敵船が現れた!リング状の超巨大船だ!」

慌ただしく駆け回るEDF隊員たち。
けたたましく鳴り響く警報。

私は震えていることしか出来なかった。

そして訪れる黄昏。



──私の本当の戦いは、ここから始まる。
今となっては誰も覚えていない、始まりの記憶。



──「危ないぞ。基地内の通路は歩行者用の場所を歩け。我々のアーマーは衝突した物を破壊してしまう」

──「は、はい!すみませんでした。ありがとうございます」

──「今日の地域交流会の参加者か?よろしく頼むぞ」



三年前のあの日、基地で危うく訓練中の兵士とぶつかるところだった私を助けてくれた、大きな盾を持った黒い鎧の男の人を思い出す。
あのままプライマーの攻撃が始まり、私もほかの基地に移送されてそれ以降その人を見かけたことは無かったけれど、無事でいるだろうか──。




赤く染まっていく空。

狂っていく世界。

そして、私の意識は──、世界は、暗転した。





プリ小説オーディオドラマ