第3話

本日の予定
82
2023/12/03 10:18
「ん?なんだ?」

突然、周囲が暗闇に包まれる。
覚えのある出来事だ。...私は自分の体をぎゅっと抱え込んだ。

「照明はすぐに直るさ」

男性の言う通りすぐに電気は着いた。...しかしこれがただの停電ではないことを、私はよく知っている。

「扉を開けよう。...こっちだ。車両に気をつけて」

状況が呑み込めない私のことには気づかず、ずんずんと進んでいってしまう彼。...止めなくちゃ。このままじゃ...。

そう思って慌てて部屋を飛び出す。

「止まれ!」
「きゃっ!」

突然大声でそう言われ、反射的に立ち止まる。
おそるおそる声のした方を見ると、そこには全身に黒い鎧をつけた兵士たちがいた。

「危ないぞ。基地内の通路は歩行者用の場所を歩け。我々のアーマーは衝突した物を破壊してしまう」
「あ──、」

大きな盾と、右手に持ったスピア。
頑健な装甲を持った兵士、「フェンサー」の部隊だ。

その盾に描かれている「GR」という文字、そしてその横のドクロの横顔のようなマークに目を引かれる。

「──おい。今基地では何らかの異常が発生しているようだ。民間人はどこかの部屋で待機していろ」
「...あ、はい...」

低い声でそう言ったフェンサーの男性は、そのまま通路の先へ進んでいってしまう。
なんとなく初めて会ったような気がしなくて、ついその後ろ姿を見つめてしまうが──。

「おーい!何してるの!」

反対方向から聞こえてきた案内役の男性の声にハッとする。振り返ると通路のかなり先にいるのが見えた。...まずい。早く行かなくちゃ。

「待ってください、その先には──」

最後まで言い切る前に、再び電気が消える。しかし今度はすぐに復旧しない。しかもサイレンまで鳴って、通路中で明らかに異常事態を知らせるような赤いランプが点滅した。
遠くからヘッドランプをつけるよう言われ、それに従う。早く追いつかないと。しかし、こんな暗いんじゃ危なくて飛べない。

「コンバットフレームが来た、気をつけてこっちまで来て」

その間にもどんどん進んで行ってしまう男性。

「待って、お願いですから──」

しかし私の声は警報にかき消されてしまう。彼は通路の先の曲がり角を曲がった。

《非常事態発生。非常事態発生。》

その放送に勝手に肩がビクリと震える。
全身の血の気がサーッと引いて、手足がガクガクと震えた。

「待って!お願いだから待って!行かないで!」
《これは訓練ではない!繰り返す、これは訓練ではない!》

震える足で何とか男性を追いかける。角を曲がると、既に男性は「あの場所」に立っていた。

「本当に何かあったのかもしれないな。まあ、そう緊張しなくていいよ。この扉の奥が...」
「だめ、やめてっっ!!!!」

もう暗いとか言っている場合じゃない。私はフライトユニットを使って飛び出そうとした。

「ええっ!、うわああああああああ!!!!」

──なのに、その声を聞いて私はそれ以上先に飛べなくなってしまった。

「あ、...」
「た...すけてぇぇっ!ぐわっ...は、ああああ!」

だらん、と投げ出される男性の手足と、バキボキと嫌な音を立てる胴体。

それを咥えているのは。
嫌になるほど見てきた、「侵略性外来生物α」。巨大な青い蟻。

「撃て!撃てぇ!」

そのままへたり込んでしまった私の後ろから声が聞こえる。それとほぼ同時に銃声。男性を襲った蟻は、銃撃を食らってそのまま転がって動かなくなった。

「なんてデカさだ!」
「死ねぇ!化け物め!」

後から出てきた蟻たちも次々と倒されていく。
そして銃撃が止んだ。

「こいつらは一体なんだ!?」
「こんな生き物は見た事ねえ!」
「恐竜の生き残りってわけじゃないよな...?」

巨大蟻の死体を見て口々に語る兵士たち。


同じだ。

前と同じことを言っている。


...そして、紫の隊服にオレンジのヘルメットを被った男性が私の方を向いた。

「危ないところだったな」
「誰だ?こいつ」
「大丈夫か?お前は民間人だな...こい、武器をやる」

そう言って安全を確認しながら、少し離れた部屋に案内される。部屋の中にはオレンジ色の巨大なロボットのようなものがあるが──、それには特に触れずに話を始める男性。

基地の地下に謎の怪物が侵入した。
数も正体も侵入経路も分からない。地上と連絡が取れず孤立している。増援が来るまで自分の身を守らなくてはならない。
民間人を守るのが軍人の役目だが、敵の正体がわからない以上約束はできない。だから、武器を渡す。いざとなったらそれで自分の身を守るようにと。

そして渡されたのは、レイピアだった。

前に渡されたのも同じレイピアだ。
けれど前回は怖くて一度も引き金を引かないまま、結局私は戦況が一旦落ち着いたところで避難所へ移された。

──戦えなかったのだ。

「お前はフライトユニットを持っている。我がEDFにもフライトユニットを使って戦うウイングダイバーという部隊がいる。我々の武器と勝手は違うが──基本的な使い方を教えることは出来る」

言われたままに武器を使って見せる。フライトユニットの使い方も改めて説明された。

「少しは戦えるようになったな。よし!着いて来い」
「あの、」
「軍曹!警報システムが作動したせいで、隔壁が降りています。予定のルートは通れそうにありません」
「俺なら隔壁のロックを解除できる。全員でここから脱出するぞ」
「...」

私の混乱など気にする余裕もなく、状況は動いていく。

「民間人!怪物と遭遇するかもしれない。自分の身は自分で守れ!いいな!」

また、大量の蟻と戦いながら地上を目指すのか。
──地上は既に地獄だと言うのに。





「なんだ...これは!」
「まだいやがった!」

──襲い来る蟻たちを倒しながら進み、救援を期待して地上に出たEDF隊員たちと私。
しかし地上にあったのは救援部隊ではなく、巨大蟻の大群と多勢に無勢で戦うEDF隊員たちの姿だった。

目の前に広がる地獄。私はいつも少数を相手にする作戦にしか参加したことがなかったから、こんなに大群を相手に戦ったことはない。...目の前で装甲を溶かされて死んでいくEDF隊員を見て、勝手に足が一歩後ろに引いた。

前の時、私はとにかく逃げ惑うだけだった。
フライトユニットを使ってひたすら飛び回って逃げた。後から軍曹さんたちは「敵の注意を引いてくれるだけでも助かった」と言っていたけれど──。

「おい民間人!戦えないのなら──」

軍曹がこちらを見てそう叫ぶ。
一体の蟻が私の方へ走ってきた。

── 「そのレイピアは、射程は短いが触れたもの全てを破壊する。...大丈夫だ、きっとうまく行く」

リング破壊作戦の前に言われた言葉を思い出す。
私は、レイピアを目の前の青い悪魔に向けた。

...敵を瞬時に破壊し尽くす閃光。
私が酸を浴びて死ぬよりも、表皮が剥がれて中身が丸出しになった蟻が地面に転がる方が早かった。

震える手をおさえながら前を向く。

「...私も、戦います。戦い方を教えてください」



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