2人で駅まで歩き、電車に乗る。
目的地がどこかは言われてないけど、結局どこ行くんだろ。
というか、人が多すぎる...。
なんて思っていたら、電車が大きく揺れた。
その反動で周りの人たちにぶつかり、思わずよろける。
が、
咄嗟に勝己くんが腕を伸ばしてきて、無言で私を抱きとめてくれる。
こんな狭い中でこんな体勢、迷惑だよね?
そう言って、勝己くんは私を抱きしめて、くるりと人混みに背を向ける。
わざわざ人混みにのまれないようにしてくれるんだ...。
お礼を言うと、勝己くんは小さく呟いて軽く頭を撫でてくる。
彼は電車を降りるまで、私が人混みにのまれないように守ってくれていた。
***
電車を降りて駅から出たあと、勝己くんがそう言って私を見る。
もう教えてくれたっていいじゃん。
思わずぷっ、と頬を膨らませると、勝己くんは小さなため息をついて頭をかく。
それから、なにかをポケットから取り出して私に差し出してきた。
彼が差し出してきたのは、2枚の水族館のチケットだった。
イルカやペンギンなどの、いろんな動物たちの写真が貼られている。
かなり前に、自分が言ったことを思い出した。
女子トークで盛り上がっている中で、誰かが言ったんだ。
「デートするならどこに行きたい?」と。
そこでふいに出てきたのが、水族館だった。
周りには男子たちもいて、その中には勝己くんもいたんだけど、まさか聞いてたとは...。
まあ、そうだろうね。
でも、かなり前のことを、しかもたったひと言を覚えていてくれたことが嬉しかった。
そう言って、私は彼の方を見て笑った。
そう言った私を見て、勝己くんは少し頬を赤く染めて顔をそらした。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!