ドラマみたいな
映画みたいな
小説みたいな
思ってもみなかった
ありきたりな恋なんて
するはずなかった
ポツポツ。
(え、雨なんてきいてない)
部活見学で遅くなった私。
今日は友達も帰っちゃった。
予想より遥かに見学で時間をくってしまった。
(傘ないよ…)
どうする、私。
(しょうがない濡れるしかない…)
思い切って、飛び出した。
いけっ!!
と思ったはずなのに
グイッ。
(えっ?)
右手を誰かに引っ張られた。
ジンジンする。
「ねえ?大丈夫?」
(ん?)
「あっ、今日の見学にいた子だ」
(あ、えっとー)
「あっ、傘。はいっ!!」
パシッ。
(栗田先輩?)
あっ、思い出した。
確かこういう名前だったような…
「違う違う栗林です!」
カアッ
途端に赤くなる。
そう自分でも感じる。
そのくらい赤く染まった。
(あっす、すみません!!)
「んーん、大丈夫だよ!
ってか早く帰らなきゃ!もう時間が!」
(ふえっ?あほんとだ!)
「バイバイーまたねー」
(はぁ、なんだったんだ今の。)
貸してもらった傘を開く。
雨の匂いと
草の匂いが
やけに鼻を刺激して
寒いからと
顔をマフラーに埋める。
まだ寒い冬のこと。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!