第2話

刺客
820
2022/11/02 11:00
周
あおいー! みてた!? みてたー!?
僕一番だったよー!
葵衣
葵衣
……
五月になると日差しは暖かいというよりも
ちょっとだけ暑い。
出来るならずっと屋内にいたい。
そんなある日の授業中、
ぶんぶんと大きく手を振ってくる大型犬に、
俺はグラウンドの隅で頭を抱えていた。

どうやら村宮は、体力テストの種目である
100m走で一番を取ったらしい。
俺は中学入学以降、友達を作ることもせず、
自主的に一人を貫いてきた。
高2になった今年も、その主義は変わらない。

なのに。
??
??
宮ちゃん元気だねぇ~
???
???
何故か俺は今、両隣を知らない男たちに挟まれている。
??
??
セッチ、今年のタイムどう?
去年の自分に勝てた?
???
???
いや
??
??
自分に敗北するってなかなか辛いよねぇ~
大型犬・村宮だけならいざ知らず、なぜこんなことに……。
いや、村宮も認めたわけじゃねぇんだけど。
一緒の組で走ってたやつらと騒いでいる村宮と、
ふいに目が合う。
飼い主を見つけた犬のような表情をした村宮は、
すぐにその場にいたやつらに手を振って
こちらへと駆けてきた。
周
えへへ、聞いて!
去年の記録更新してた!
??
??
すっごいねぇ宮ちゃん。
さすがは成長する男って感じ?
村宮が来たことによって、
俺は左右と前方を塞がれてしまった。
何なんだよこれ。いじめか? いじめなのか?
話ならよそでやってくれ。てかほんと両隣誰だよ。
周
つかさは? どうだった?
司
ボク? ボクはほら、運動系じゃないしね
???
???
退化
司
あ~、セッチひどい~
そういうセッチだって
去年より悪いって言ってたじゃんか
周
そうなの?
せいや、まだこれからじゃなかった?
成也
成也
おう
葵衣
葵衣
じゃあさっきの会話は何だったんだよ……
耐え切れず思わず突っ込むと、
三人の視線がいっせいに向けられる。
なんで声出したんだよ俺のバカ……。
司
えっ、なになに、意外と話聞いてるじゃん。
えっと、君誰だっけ? かおりちゃんだっけ
葵衣
葵衣
誰だよそいつ!
周
あおいだよ!
相原葵衣!
司
あー、そうだったそうだった、
そんな名前だったね
周
そう言えば自己紹介? 他己紹介?
してなかったよね?
司
あータコ紹介ね。
メンダコってかわいいよね
成也
成也
角凧とか連凧とか奴凧とか
周
えっ! 初めて聞いた!
そんな名前のタコもいるんだ!
成也
成也
水にいれると破けるらしい
周
ええっ!?
話が進まねぇ! バカなのかこいつら全員!
つかなんだよタコ紹介って! 
そんなんされて誰が喜ぶんだよ! わかるかんなもん!
司
ま、そんな冗談はさておき
俺がふつふつと湧き上がる突っ込みを
必死に打ち消していると、
『つかさ』と呼ばれた男が
話題を切り替えるように、ぽん、と手を叩いた。
司
あらためまして、ボクは和田わだつかさ
こっちは三浦みうら成也せいやクンでーす
和田に紹介された三浦は頭を下げることも無く、
興味なさげにそっぽを向いている。
態度悪……。

いや、え、まて、それよりも。
和田司に三浦成也。
その二人の名前を、俺は聞いたことがある。
和田司は見るたびに違う女を連れているという女たらし。
三浦成也は無愛想で喧嘩っ早いヤンキー。
高校一年の時にクラスこそ違ったものの、
ボッチの俺の耳にまで届いていた二人の名前。
そんな奴らとは
絶対関わりたくないって思っていたのに……!

なんで! よりによってそいつらが今! 俺の前に……!
司
セッチ、先生に呼ばれてない?
次、セッチの番?
成也
成也
あ?
……あぁ……
村宮と和田に見送られて去っていく三浦。
噂に聞いた通り、無愛想だし口数も少ない。
葵衣
葵衣
(なんだろ……
三浦が話すときのイントネーションって、
なんかひっかかるんだよな……)
周
あおいは? 100m走どうだった?
葵衣
葵衣
は? あぁ……いや、俺は
司
見てたよ~、意外と速かったねアイアイ
葵衣
葵衣
……
友人でも何でもないやつが走るとこなんて、
いちいち見てんじゃねぇよ。
それに意外とって失礼すぎるだろ。
あと何だよ、アイアイって。
全てのツッコミを懸命に飲み込んでいれば、
村宮が「あっ!」と声を上げた。
それにつられて視線の先を追うと、
三浦を含めた五人の100m走がスタートした所だった。
葵衣
葵衣
うわ、
周
すごい! さすがせいや! はやーい!
司
ひゃー、やっぱセッチは違うねぇ~
歓声を上げる二人と同じように、
俺も三浦の走りに目を奪われていた。
綺麗なフォームを崩さず、
三浦はぐんぐんと周りを置いて行ってしまう。
速い。陸上部張りの速さだ。
そして誰も寄せ付けることなく、
そのまま一位でゴールしてしまった。
葵衣
葵衣
はや……
司
人間の身体ってあれだけ早く動かしても
ちぎれないんだねぇ。強い強い
周
せいやの場合、ちぎれても
素早く動いてそうだけどね
俺は思わず村宮の方を見る。
顔に似合わず何てグロイことを言うんだ……。
想像しちまったじゃねぇか……。
本体から離れてもなお、
ビチビチと元気に動く三浦の手足を。
和田も同じらしく、微かに眉間にしわを寄せていた。
司
やだ想像しちゃったじゃん……
どう責任取ってくれるの、宮ちゃん
周
えっ? ご、ごめん……
ほら、せいやが面白い事言ってくれるって!
成也
成也
あ? なに?
司
戻ってきてそうそう悪いんだけど、
ボクの脳内で蠢いてるセッチのちぎれた手足
どうにかしてくれない?
成也
成也
あー……元気でなにより?
話が分かんねぇなら無理に応える必要はねぇだろ。
放っておくとボケの渋滞しか起こさないこいつらに対して
俺が出来ることといえば、
湧き上がるツッコミをすべて飲み込み、
静かに距離を取ることだけだった。

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