第4話

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85
2021/03/28 21:46
僕は信じられなかった。
目の前の光景と自分の無力さに。

ちょっと走っただけでこの喘息。
早く朝比奈さんを助けたいのに、動かない体。
声を出したいのに喉からは掠れた声しか出ない。
それになんだか苦しくなってきた。

意識が朦朧とする中、声をかけられたような気がした。

「…………」

周りの人かな……。
わからないや。


僕の意識はブラックアウトした。




*** 






僕が目を覚ましたときには、病院にいた。
キツイ消毒液の香りと真っ白な布団にベッド。

今回の喘息はそんなに酷かったのだろうか。
普段喘息では病院のベッドに横たわることがない僕は少し驚いていた。

しかし幸いにも呼吸器などはついてなかった。

僕はぼぅーっとしながら寝返りをうつ。
ゆっくり瞬きすると、ぼやけた視界にはベッドで眠る朝比奈さんが映っていた。

「あ…朝比奈さん……?」

僕がそう言うと、彼女は瞼を上げた。
虚ろな目を僕に向ける。

「ごめんなさい……!僕が追いかけたりなんかするから…!本当にごめんなさい!」

僕の目から透明の雫が白いシーツに落ちる。


ぽたりぽたり


涙で滲む視界には朝比奈さんも泣いているように見えた。

「……私も……ごめんなさい。危ないって言ってくれたのに……」

聞こえてたんだ……。
僕の言葉

「朝比奈さんは謝らなくていいよ……
全部、僕が悪いんだ。」

「僕……1度気になったことがあったら周りが見えなくて……朝比奈さんの気持ちも知らないで……。
本当に無神経でごめんなさい。」

僕はベッドの上で頭を下げた。

涙でいっぱいの僕を顔を見られたくなくて、惨めな僕を見られたくなくて、自分の事だけだった僕が恥ずかしくて……

「ねぇ、君の名前聞いてもいい…?」

朝比奈さんはそう言った。

「ぼ、僕の名前は………」


ぐっ………
頭が痛い……
なんで…なんで…こんなときに……!


目の前の朝比奈さんは『大丈夫!?』とそう言ってふらつく体でナースコールを左手に持ち、また僕の意識はブラックアウトした。








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