僕が音を出すとお母さんは喜んでくれた。
忙しいのに……
その頃にはお父さんと離婚して、家には僕とお母さんとおばあちゃんがいた。
それからお母さんを喜ばしたくてよくピアノを弾いていた。
お母さんはいつも『楽しく弾きなさい』って言ってた。
その言葉を胸に僕はいつも弾いていた。
いつの時からか僕は四六時中ピアノといた。
そして、5歳からピアノのコンクールに出た。
いつもお母さんは仕事だったから昼間は僕とおばあちゃんだけ。
おばあちゃんっ子だったんだけど、そのおばあちゃんは僕が7歳になる頃、亡くなった。
僕は7歳ながらにとっても悲しかった。
もう、優しいおばあちゃんはいないと思うととめどなく涙が出てきた。
それから僕の病気が発見された。
「実はね、もう余命を超えてるんだ。」
僕はそう言った。
「え……余命……?、超えてるの……」
萌夏は、そう呟いた。
「だから、ピアノのコンクールに出れるのはこれが最期で。
だから、最期に何かこの世界で僕が生きた証を残しておきたかったんだけど…、
やっぱり賞は取れなかった」
僕の口からは乾いた笑いが出てきた。
………本当は僕も一回でいいから賞をとってみたかった。
僕の生きる理由になってくれたピアノを認めてほしかった。
「萌夏…僕からの最後のお願い聞いてくれるかな…」
「そんな…最後なんて言わないでよ……
私、寂しいよ」
「お母さんにとらわれないで、萌夏の音色は萌夏のもの。
だから、これからは楽しく弾いてね。僕が大好きな萌夏のピアノをずっと聞いていたいから……!」
「約束してくれる…?」
「わかった。少しずつリハビリしてピアノ弾けるようになるから、すぐるも隣にいてよ…!」
「約束してよ……」
萌夏は左手で僕の手をぎゅっと握った。
「温かい……」
その時、足音が聞こえた。
他の同室の病人ではなく……
違う人……
「お母さ……ん…」
萌夏のお母さんだった。
僕も知ってる。
なぜなら天才ピアニストで名を馳せているから──
「どうして……、」
「これじゃあピアノできないじゃない……!
なんで今怪我するの…!」
(やっぱりそう捉えることしかできないんだ)
僕はそう思った。
「…私は────もういい。勝手にするから」
萌夏がそう言うとお母さんは去っていった。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。