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第1話

最期のコンクール
181
2021/03/26 23:46
3月。

僕は最期のピアノのコンクールに出場していた。
5歳の頃からしているピアノは11年間も続いていた。

舞台袖からピアノの近くまで歩き、審査員たちに軽く頭を下げる。
舞台を照らすスポットライトと人々の目線は、僕の体温を上昇させた。

しっかり弾けるかなんて僕の場合は二の次だ。




一番大切なことは、





楽しく弾くこと。





ただ、それだけを胸に椅子に座る。
深呼吸をし、鍵盤に指を添える。






さぁ、奏でよう。

僕だけの、僕にしか弾けない音色ピアノを。








***




僕は満足だった。
決して拍手が多いわけじゃないけど……。

また、審査員に頭を下げて舞台袖に戻る。


戻るときにふと僕の目に映ったのは、少し年上だと思われる女の子。
腰のあたりまである黒髪はサラサラでいかにも清楚な子だった。


アナウンスが聞こえた。

『25番。朝比奈あさひな 萌夏もか

黒の落ち着いた膝丈のワンピースを翻し、歩いていく。
僕は、ちょっとした好奇心────いや、彼女に見惚れてしまったから

"そんな彼女の演奏を近くで聞いてみたい"

そう思って舞台袖にいることにした。








聞こえてきた音色は優しくて温かい。
それでいて、音が1音も外れていない。
完璧だ。

でも……
なんだろう。



きっと、この女の子は楽しそうじゃない。
弾かされている。そういった表現のほうが正しいのかもしれない。

何でだろう…。








ねぇ、どうしてそんなに悲しそうに弾くの?









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