第118話
117 妖艶
視線を唇から、もう一度瞳に移せば人の欲を駆り立てるような妖艶な目つきに変わっている。
たかが数センチしかなかった隙間は、あっという間にゼロ距離に。
数秒後に開いた彼女の目はいまだ妖艶で、目を逸らす事が出来ない。
その言葉が恥ずかしかったのか、罵声を飛ばしながら離れる彼女。
座り直せば、足の間に入ってきて私の腕を引っ張り自分の手を重ねている。
…何だか眠くなってきた。
連日の仕事の疲れと、気持ちが落ち着いたせいか眠気が一気に押し寄せてきた。
…待った。
眠過ぎて思考が停止しかかっているが、私どこで寝るんだ?
この部屋、ソファーとかないじゃん。
もういいや、床で。
そのまま床で寝てしまおうとすると制止され、立ち上がった彼女に腕を引かれる。
無理矢理起こした体を引きずる様に彼女は私をベッドまで引っ張る。
…このベッド、ダブルぐらいのサイズしかない。
眠気には勝てないけど、朝起きて寝起きの彼女にも勝てる気がしない。
やっぱり、床で寝る。
…って、あれ?
気付けば彼女に肩を押され、体がベッドに沈み込んだ。
彼女にピッタリと張り付かれ、素早く布団をかけられる。
言われた通りに体を向ければ、私の胸の中にすっぽりと収まる。
…腕どうしたらいいんだろう。
彼女は縮こまった私の腕を引っ張り、そこに頭を乗せる。
もう片方の手は、ギュッと握られ私は身動きがとれない。
上目遣いで見られ、胸が高鳴る。
寝づらくないのかと聞きたかったが、「気になる」と言った後に笑った彼女を見れば違う言葉が口から出ていた。
部屋が暗くて分からないが、きっと顔を赤くしているだろう。
私の胸に思いっきり顔を埋めて、きついぐらい私に抱き付いている。
彼女の体温が心地よくて、既に落ちかかっていた瞼は直ぐに閉じてしまった。
…カシャ
今、カシャって聞こえた。
重い瞼をゆっくり開ければ、スマホを向けている彼女が居た。
スマホを取り上げ、さっきの写真を消去する。
彼女にスマホを返せば、少し頬を膨らませ拗ねてしまった。
伸び切った腕を少し曲げ、彼女の頭を撫でる。
すると腹部に違和感を感じ、布団の中を見ればTシャツは捲り上げられ腹部は曝け出されている。
彼女の指が、腹筋の筋をなぞるように行ったり来たりしていて、その手を止めれば彼女と目が合った。