第116話
115 今の自分の始まり
そう言われ、シャワーを浴びさせてもらった。
新品のタオルは全くと言っていい程、水を吸わない。
温まった体が少しずつ冷えていくのが分かる。
一言呟けば、聞こえる訳もないのに脱衣場に彼女が入ってきた。
…なぜ、開けた?
私、上半身裸ですけど?
先に下履いてて良かった。
…いや、待て!
そうじゃなくて、何で入ってきた?
肩にはタオルがかかっていて、全て曝け出している訳ではない。
それに、彼女には背中を向けている。
けど、見られたくはない…
彼女の気配がゆっくり近付いてきて、背中を捕らえられる。
ゆっくりと回された手は震えていた。
やっぱり、気になるよな。
一緒の性別なのに、一緒のものがないのだから…
彼女の声が震えている。
辛くはなかった…
ただ、命令に従うしかない自分に腹が立っただけだった。
それよりも、今聞こえてくる彼女の震えた声の方が私には辛い。
彼女の手に自分の手を添える。
ギュッと握れば、彼女は子どもの様に泣き出した。
彼女の腕を一度解き、服を着る。
体は冷え切っていて、背中に彼女の体温だけが残っていた。
彼女と向き合う形になれば、私の中に飛び込んでくる。
冷えた指先で涙を拭えば、「冷たい」と文句を言われた。
少し下を見れば、目が合いニヤニヤしているのに気付く。
私の中に居た彼女は、少し離れ服を脱ぎだそうとしている。
待って下さい。
ここから出させて下さい。
なんとか脱衣場から脱出し、彼女の部屋に戻る。
先に歯磨きしといて良かった…
呑気な事を思いながら、スマホを手に取る。
親友の名前を探し、メッセージを送った。
いつもレスポンスが速い親友。
すぐに既読がつき、返信がくる。
電話をかければ、ワンコールも鳴り終わらない内に声が聞こえた。
ホテルではないが吸えない。
タバコはあるのに吸えない。
あー、生き地獄ってこういう事なのかな…
タバコに気を取られ、肝心な事をすっかり忘れていた。
しかし、なんともタイミングよく扉が開き、彼女がシャワーから戻ってきた。
私は、彼女にスマホを向けカメラをONにする。