そう言われ、シャワーを浴びさせてもらった。
新品のタオルは全くと言っていい程、水を吸わない。
温まった体が少しずつ冷えていくのが分かる。
一言呟けば、聞こえる訳もないのに脱衣場に彼女が入ってきた。
…なぜ、開けた?
私、上半身裸ですけど?
先に下履いてて良かった。
…いや、待て!
そうじゃなくて、何で入ってきた?
肩にはタオルがかかっていて、全て曝け出している訳ではない。
それに、彼女には背中を向けている。
けど、見られたくはない…
彼女の気配がゆっくり近付いてきて、背中を捕らえられる。
ゆっくりと回された手は震えていた。
やっぱり、気になるよな。
一緒の性別なのに、一緒のものがないのだから…
彼女の声が震えている。
辛くはなかった…
ただ、命令に従うしかない自分に腹が立っただけだった。
それよりも、今聞こえてくる彼女の震えた声の方が私には辛い。
彼女の手に自分の手を添える。
ギュッと握れば、彼女は子どもの様に泣き出した。
彼女の腕を一度解き、服を着る。
体は冷え切っていて、背中に彼女の体温だけが残っていた。
彼女と向き合う形になれば、私の中に飛び込んでくる。
冷えた指先で涙を拭えば、「冷たい」と文句を言われた。
少し下を見れば、目が合いニヤニヤしているのに気付く。
私の中に居た彼女は、少し離れ服を脱ぎだそうとしている。
待って下さい。
ここから出させて下さい。
なんとか脱衣場から脱出し、彼女の部屋に戻る。
先に歯磨きしといて良かった…
呑気な事を思いながら、スマホを手に取る。
親友の名前を探し、メッセージを送った。
いつもレスポンスが速い親友。
すぐに既読がつき、返信がくる。
電話をかければ、ワンコールも鳴り終わらない内に声が聞こえた。
ホテルではないが吸えない。
タバコはあるのに吸えない。
あー、生き地獄ってこういう事なのかな…
タバコに気を取られ、肝心な事をすっかり忘れていた。
しかし、なんともタイミングよく扉が開き、彼女がシャワーから戻ってきた。
私は、彼女にスマホを向けカメラをONにする。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!