「ルシア様は、幼い頃から村の外に興味があったんですね」
「ああ。あいつの日記に書いてあったんだ。あいつの村でどんな生活をしていたのかもな」
「少し、待っていてくれ」
そう言ってリアン団長は部屋を出て行った。
「一人称の矯正、それが村の習わしに関係しているのだとしたら…」
考えれば考えるほど、妙な感覚に襲われた。
まだリアン団長から詳しい話を聞いたわけではない。
それでも、もしあの村で…ルシア様が、自分の望まない生き方を強いられていたのだとしたら…
「殿下?怖い顔してどうかしたか?」
「なんでもないですよ。それで…それは…?」
リアン団長はノートを持って来ていた。
「これは、ルシアが騎士になる前に書いていた日記だ」
「騎士になる前に…」
「ああ。それじゃあ続きを話そうか」
リアン団長は日記を開き話し始めた。
40年前_____ルシア・アリアトリス7歳、とある郊外の村
今日も村は平和で、どこかおかしい。けれど、相変わらず違和感を感じているのは、きっと僕だけ。
「今日も可愛くしましょうね」
母は上機嫌に僕の髪の手入れをする。腰あたりまで伸びた髪は、夏は蒸れて鬱陶しい。
「お母さん…いつまで、私はこうしていればいいの?」
ただ一言、一人称を口にするだけでも母の機嫌を損なわないように気を使う。これが僕にとっての当たり前だった。
「ルシアはそんな事気にしなくていいのよ。あなたはただお母さん達の言うことを聞いていい子にしていればいいの」
母はそう言って笑う
「心配しなくていいの。土地神さまが守ってくださるから」
「土地神さまは、本当に助けてくれるの?」
僕が問いかけると母は驚いたのか一瞬目を見開いてから笑った
「えぇ。大丈夫、願えば叶うのよ。だから今日も土地神さまが笑ってくださるように、可愛くしましょうね」
「それに、ルシアには大切なお役目もあるんだから」
「お役目?」
「そうよ。だけど、今はまだルシアは知らなくていいの」
「…そっか」
土地神さまの話になると周りの大人はみんなそうやって笑うのだった。











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。