敵もいなくなり、歩く音だけが廊下に響く。
狡噛におぶられた神楽は何時の間にか寝てしまっていた。
右手に壊れた義手を持ち、阿伏兎が一人で前を歩く神代に声を掛ける。すると、相変わらずの笑顔で神代が振り返る。
そんな阿伏兎の話を無視して神代は前を向き、「神威何処だろー。ま、いいかー。アイツだし」と呑気に笑う。
諦めて何も言わずに阿伏兎が遠くを見つめ、同情したグソンが阿伏兎の肩に手をポンッと置いた。
深い溜息をつく阿伏兎だったが、揃うように槙島が隣を歩き「彼女に振り回されているようだね」と、面白そうに笑う。
土方がツッコミを入れている後ろでは、ナオミと瞳子が二人で話をしていた。
瞳子はそう言うと、無言で槙島達と歩いている藤間の背中を見つめた。
嘗て、藤間に捕らわれて拘束されていた時に瞳子は彼の過去を聞かされていた。
その中には、双子の妹である“お姫様”を自らの手で殺害したという自白もしていた。
ナオミは瞳子の表情と視線から藤間と何かあったのだと察し、そっとしておくことにした。それに気付いて居るのはナオミだけでなく、二人の後ろを歩いている鏡花も同じだった。
最後の言葉があまりにも小さ過ぎて聞こえなかったのか、鹿矛囲は首を傾げた。
鏡花は静かに鹿矛囲を見上げると、「貴方からも、血の匂いがする」とだけ言い、正面を向く。
鹿矛囲は視線を床に移して呟くと、何処か悲しげにフッと笑った。自分が生前犯した罪を思い出しているのだろう。
廊下を半分進んだ所で、何か音がしたのか、近藤が足を止める。他の皆も足を止めて近藤の方を振り返り、土方が「なんだァ?また敵か?」と眉間にシワを寄せた。
銀時がそう口にした瞬間、壁の向こう側からドン!と叩くような音がした。
土方や銀時、瞳子達はビクッと肩を上げて壁から離れて距離をとる。
やはり隠し扉でもあるのか、壁の向こう側から少年の声がした。新八がどうやって開ければいいのか困っていると、槙島が「あったよ」とボタンを見つける。
壁の向こう側はどうも騒がしい。
槙島がボタンを押すと、壁の一部が自動ドアの様に開き、「わぁ!?」と人が三人倒れてきた。床に倒れた三人の上を別の一人が飛び越え、その人物の両手には拳銃が握られてある。壁に背中を着け、屈伸した状態で扉の向こうから襲いかかってくるエイリアンに銃口を向けると、その人物は容赦なく銃弾を何発も撃ち込んだ。
扉の向こうから現れたのは赤髪で眼鏡をかけた青年と、黒髪の少年、金髪の少女。そして、髪も服も真っ白な若者だった。誰だかは知らないが、エイリアンに追われていたところからしてきっと仲間だろう。銀時達は直ぐにそう察した。
土方が親指を槙島の方に向けると、黒髪の少年も槙島の方に身体を向けた。
少年が満面の笑みで「ありがとうございました!お陰で助かりました!」とお礼を言う。
こんなにもあどけない笑顔で素直にお礼を言われるなんて事は恐らく今までに無かっただろう。この少年が自分の正体を知らないとはいえ、らしくもなく悪くない……と思い「別に。大したことはしてない」と微笑みながら返答した。
槙島と同じような、真っ白な若者が言うと、隠し扉の奥からこちらに向かって走って来る数人の足音が聞こえた。
ぞろぞろと他の面々もやって来て、狡噛が「一気に人数が増えたな」と呟く。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。