第3話

窓の外
1,323
2018/08/17 07:10
真っ白な病室に、1人の女の子が寝ていた
彼女は一ヶ月前に階段から落ちて腰を打った上、持病の悪化もあって今ではベッドから起き上がることも出来ない状態だった
かわりばえのない日々の中で
サナは窓の外をぼんやりながめてはため息をつく毎日を過ごしていた
そんなある日のことだった
ずっと空いていた隣のベッドに1人の少年がやってきた
サナ
サナ
はじめまして!こんにちわ
サナは久しぶりに会話相手が出来たことを喜んで、笑顔で少年に話しかけた。
けれど、返ってきたのは不信感にいろどられた声だった
ユンギ
ユンギ
…あんた誰?
あまりに乱暴な挨拶にサナが驚いて目をしばたたかせる
付き添いの母親があわてて二人の間に入ってきた
お母さん
こら、ユンギ!そんな言い方ないでしょ!
お母さん
申し訳ございません。この子はその…
お母さん
目が見えないものでして
言われてサナは納得した
少年の目はどこか遠く、何も無い場所を睨んでいたのだ
サナ
サナ
こちらこそ無神経にすみません。
サナ
サナ
私はサナです!よろしくお願いします
お母さん
こちらこそよろしくお願いします
お母さん
ほら、ユンギ!あいさつなさい
母親にうながされても、少年は何も言わなかった
彼はフンッと顔をそむけると、持っていた野球のボールをベッドの脇に置いて自分はベッドにもぐりこんでしまった
何度もこちらに頭をさげる母親を見て私はやれやれと肩をすくめた
それから数日がたった
日が落ち、空があかね色に染まるころ、うとうとしかけていた私は
突然の物音に驚いて目を覚ました
ユンギ
ユンギ
クソっ!なんだよ!
怒りにも諦めにも似た言葉が耳を打つ
起き上がると壁にぶつかったボールがトントンと小さくはねて転がってくるのがみえた
さなはため息をつくと思い通りに動いてくれない体を起こしボールを拾って少年の手に返してあげた
サナ
サナ
やけになっちゃダメだよ
ユンギ
ユンギ
お前、目が見えるんだろ?そんなやつに何が分かるんだよ!
ユンギ
ユンギ
俺は目が見えない。この先ずっと、真っ暗な世界を生きていかなきゃならないかもしれないんだよ!
サナ
サナ
そう。じゃあ君には体も思い通りに動かなくて、
サナ
サナ
中学からは学校に行ってなくて友達もいない。病室には私1人。そんな私の気持ちわかる?
少年はハッとして息をのんだ
ユンギ
ユンギ
ごめん。怒鳴ったりして
ユンギ
ユンギ
それに、お前だって病人なのに
ユンギ
ユンギ
俺が悪かった
うつむいたままポツリと謝る
まさか素直に謝れるとは思ってなかったから目を見開いた
でもそれは一瞬のことで
すぐに優しい眼差しで少年を見た
サナ
サナ
許すよ。それに私の体は故障してばかりのポンコツだけどそれでも一つしっかりしてる所があってね
サナ
サナ
どこだと思う?
ユンギ
ユンギ
知らねーよ。そんなの
サナ
サナ
それはね目だよ
サナ
サナ
体が不自由でも目はしっかりしてるんだ
ユンギ
ユンギ
ケンカ売ってんのか!?
少年がいきり立つ。
サナ
サナ
まぁまぁ
サナ
サナ
せっかく使えるものがあるんだったら有効活用しようと思ってね
サナ
サナ
君の目がふたたび見えるようになるまで私が君の目の代わりをしてあげるよ
ユンギ
ユンギ
はぁ?
ユンギ
ユンギ
そんなよけいな親切いらねーよ!
サナ
サナ
親切?違うよ
サナ
サナ
私はとにかく暇だから、暇つぶしだよ
私がにっこり微笑む。少年は有無言わせぬ空気を感じたらしい
ユンギ
ユンギ
勝手にしろよ!
怒鳴るとボールを握ったまま頭から布団をかぶってしまった
今から私は少年の「目」になった
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