真っ白な病室に、1人の女の子が寝ていた
彼女は一ヶ月前に階段から落ちて腰を打った上、持病の悪化もあって今ではベッドから起き上がることも出来ない状態だった
かわりばえのない日々の中で
サナは窓の外をぼんやりながめてはため息をつく毎日を過ごしていた
そんなある日のことだった
ずっと空いていた隣のベッドに1人の少年がやってきた
サナは久しぶりに会話相手が出来たことを喜んで、笑顔で少年に話しかけた。
けれど、返ってきたのは不信感にいろどられた声だった
あまりに乱暴な挨拶にサナが驚いて目をしばたたかせる
付き添いの母親があわてて二人の間に入ってきた
言われてサナは納得した
少年の目はどこか遠く、何も無い場所を睨んでいたのだ
母親にうながされても、少年は何も言わなかった
彼はフンッと顔をそむけると、持っていた野球のボールをベッドの脇に置いて自分はベッドにもぐりこんでしまった
何度もこちらに頭をさげる母親を見て私はやれやれと肩をすくめた
それから数日がたった
日が落ち、空があかね色に染まるころ、うとうとしかけていた私は
突然の物音に驚いて目を覚ました
怒りにも諦めにも似た言葉が耳を打つ
起き上がると壁にぶつかったボールがトントンと小さくはねて転がってくるのがみえた
さなはため息をつくと思い通りに動いてくれない体を起こしボールを拾って少年の手に返してあげた
少年はハッとして息をのんだ
うつむいたままポツリと謝る
まさか素直に謝れるとは思ってなかったから目を見開いた
でもそれは一瞬のことで
すぐに優しい眼差しで少年を見た
少年がいきり立つ。
私がにっこり微笑む。少年は有無言わせぬ空気を感じたらしい
怒鳴るとボールを握ったまま頭から布団をかぶってしまった
今から私は少年の「目」になった
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー続くーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。