目が覚めると、パチパチと音がする。…焚き火…?
何かが肩にかかっている。起き上がって見てみると真っ黒のローブだ。
…私、何をしてたんだっけ。
「ん……」
「起きたカイ」
年齢不詳の声で思い出した。そうだ。アイツは…!
辺りを手でナイフを探す。
みつからない、見つからない…!
どうしよう。私、あのバケモノにころ…される?
「ナイフを探そうとしても無駄ダ。君みたいなお嬢さんが、あんなモノを持つベキじゃないナ」
焚き火の前の倒木に腰掛けているあのバケモノは、今はまだ襲って来る気配はない。
私は今出せる精一杯の声を出して、訪ねた。
「あ…あなたは、誰…」
「私カイ?……そうだな、神父。とでも名乗ろウカ。」
「貴方が、神父…?…っ!そんなのあり得ないわ…!だって、だって、バケモノ、じゃない…!」
言った後で後悔した。アイツが、ジッと此方を見て来る。…どうしよう、怒らせたかも知れない。今度こそ殺される…!
ぎゅっと目を瞑って身構えたが、思っていた衝撃は来ない。
ゆっくり目を開けるとあの神父と名乗るバケモノは、先程と同じく倒木に座っていた。
「…そうダナ。私はバケモノだ。…だが人を殺したりはしないサ」
「じゃ、じゃあ何故こんなとろこに…?」
「お嬢さんと同じダ。私を怖がって人間がこの森に閉じ込めているのサ。…森の入り口に、バツ印がついていた木があったダロウ?あれが、境界線なんダヨ。私はあそこから外に出られなイ。」
「だったら尚更、人間を恨む理由があるわ!」
「本当に恨んでいないんダ。こんな見た目ダから、しょうがない事サ。……サァ、お嬢さん。もうお帰リ。もう直ぐ夜ガ明けてしまう。…私が出口マデ…いや、それは嫌カ。…ほら、このユリに沿って道を歩ケバ、出口にいけル。」
そのバケモノはパチンと指を鳴らすと、地面から私が焦がれていたあの、キラキラした青いユリが道案内の様に、咲いていた。
「こ、これ…!」
「アぁ、これは人間がコノ森に入って来た事を知らせる花。…触れたとき、光が消えたダロウ?その時、私に知らせがはいったノサ。」
ーさぁ、モウお帰り。
そういうバケモノは、表情が無いのに何故かとでも、寂しそうで。
勝手に、次の言葉が出ていた
「あ、あの。」
「…ナンだい?」
「また、来てもいい……ですか」
「サッキまで、私をバケモノと呼んでイタのにかい?」
「う…。…だって、貴方とても、寂しそうだから」
『寂しい』と言う単語を聞くと、少し、驚いた様な仕草をする。
「寂シイ…ね。確かに。…でも。君は怖く無いのカイ?…私は、ヨルにしか人に見えない。ダカラ、来るとしたら真夜中ダ。……それでも、このバケモノに会いにクルと?」
バケモノ…もとい、神父さんが倒木から立ち上がって、此方に向かって歩いてくる。
実際、凄く怖かった。でも、なぜか逃げちゃいけない。…そう、感じて。
「は、はい…!貴方の事を、知りたいから」
神父さんは私の目の前でピタッと立ち止まる。…そして、何かを考えるかの様に黙り、真っ黒の手袋の手を、私の頭に乗せた。
「ヨシ。じゃあ、週に一度ダケ。真夜中にこの森ヘオイデ。私までの道案内ハ、ユリ達がしてくれるサ」
頭に乗せられた手は、わしゃわしゃと私の頭を撫でる。
それまでの緊張が一気にほどけ、私はヘナヘナと座り込んでしまった。
「…!?大丈夫カ…!?」
神父さんは慌てて私を抱き上げると、
今日ハ、もうお帰リ。
と言って、私を出口まで送ってくれた。
先ほどの『お帰り』よりも、少し嬉しさが含まれていた気がする……のは、私の勝手な妄想なのだろう。
最初は恐怖しか感じなかった、あの神父さん。まだ、少し話しただけ。でも、バケモノも、寂しいと言う感情がある分には、人とあまり変わらないのかもしれない。…そう、思ったのだ。
これが、私と神父さんとの出会い。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!