第3話

転生した子が迷子になる話。その2
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2020/04/26 08:08
連れてこられたのは、台所だった。それも超立派。
奥には明かりがついており、眩しくて目が少し痛い。人がいるのだろうか。

「そこで待っていろ」と、伊黒さんは奥に入って行った。

なんで台所なんだろう。伊黒さん、お腹空いたのかな。
男の人だもんね、夜食くらい欲しくなるか。と、適当な理由をつけて自分を納得させた。

しばらくすると伊黒さんが奥から出てきた。手には少し小さめの湯呑みを持っている。
スッ…と、伊黒さんは無言で私の前にその湯呑みを差し出してきた。

「?…綺麗な湯呑みですね?」
「違う。」

すぐさま鋭いツッコミが入った。な、なにが違うんだろう。

「喉が乾いたから部屋を出たと言っていただろう。さっさとそれを飲め。
飲んだらすぐ部屋に戻るぞ。」

そうだった。私喉が乾いてたんだった。もうそれどころじゃなさすぎてすっかり忘れていた。
確かに恐怖から更に私の喉はカラカラになっている。
なるほど、伊黒さんは水をもらいに行ってくれていたのか。
優しい。一気に神様に見えてきた。
第一印象は夜中に部屋の前に立っている説教男だが。

「ありがとうございます。」

素直にお礼を言って、湯呑みを受け取る。
あぁ…。美味しい。 
冷たい水が、カラカラの喉を流れていく。
オアシスッッ!! 

「ぷはぁっ!!」

一気に飲み干してしまった。
「婦女子がそんなみっともない声出すな。」なんて伊黒さんに言われてしまった。
そう言いながらも、私の飲み干した湯呑みを再び奥の方へ戻り、返しに行ってくれた。
なんだかんだ優しいのね…。

その後、伊黒さんは私を部屋まで連れてってくれた。

「ありがとうございます、優しいですね。」

「お前のためにしてるわけじゃない。自惚れるなよ。」

最後にピシャリと釘を打たれた。ほんとは嬉しいくせに。
こぉの〜、ツンデレラめ☆

あ、そういえばまだ聞けてないことがあった。

「あの、伊黒さん。なんで私の部屋の前にいたんですか…?」

そうだった。すっかり忘れてたけど。この人は私の寝てた部屋の前にいたらしい。一晩中。確かに優しいが、
深夜に女子の部屋の前に立っているのはどうかと思う。
通報されますよ。この時代って、交番あるのかな?もしかしたらないかも。(⚠︎あります)

「聞いていないのか」

YES。なにも伝えられてませんが。

コクリとうなずいて見せる。

「滅多にないが、この屋敷に鬼が侵入してきた時、助けるための護衛だ。毎晩こうやって俺たち
柱が交代してここで監視することになった。そして、運悪く俺が初めて選ばれたんだ。お館様の
頼みじゃなかったらおまえの面倒なんざ見ないからな。さっさと部屋に入って寝ろ。まったく
どうして俺が…」

なるほど、伊黒さんは扉の向こうで未だぶつぶつ文句を言っているが、とりあえず理由はわかった。
まさか私の護衛をするためだったとは。こんな暗闇に一人、一晩中見張ってないといけないのか。
しかも、鬼が出たときは戦わなければならない。
私一人のためなんかに。

なんとも申し訳ない気持ちになってきた。

きっと夏は想像以上に暑く、冬も想像以上に寒いだろう。今春だけど。

それに伊黒さんも人間だ。きっと暗い廊下に一人は怖いに決まってる。
私も怖かったから。同じ思いして欲しくないなぁ…。
うーーーん……。

スパァァァァンッッッッ!!!

考えた末、私は勢いよく襖を開けた。
そんなつもりじゃ無かったのに、思いの外力強く開けてしまい、すごい音がなってしまった。

伊黒さん、刀構えないでください。

「……なんのようだ」

「あ、あの…えと…わ、私一回起きると二度寝できない体質でして…えーと、喋り相手に 
 なってくれたらなぁ〜……なんて……」  

伊黒さんは、「はぁぁぁぁ〜…」と、長ぁぁい溜め息をついた。
そんなに呆れんなよぉ〜。 

「勝手にしろ…」

伊黒さんはあくまで仕方なさげに、オッケーしてくれた。

私は伊黒さんの隣に座った。まぁ、伊黒さんは立ってるんだけど。

「……」

「…………」

気まずい。どうしよう。
私が喋り相手になってほしいと頼んだのだから、私から話題を振るべき…?
だからといって盛り上がるような話題なんて私には思いつかない。
あぁ〜〜〜。私がお笑い芸人だったらなぁぁ〜。
チラッと横目で伊黒さんを見る。

なんて綺麗な顔立ちなんだろう。ツヤツヤの黒髪は月の光によって更に輝いている。(周りに窓
ないから月の光にあたってないけど。)目も綺麗。左右非対称(横目で見てるので片方しか見えて
ないけど。)だが、それもまた神秘的で美しい。
ほんとに男の人??   てかその蛇何なん。ずぅっっと肩にいるけど、大親友的な?
チ○プとデール的な?

「おい、何だ。じろじろと人を見て失礼な奴だな」

私の熱烈な視線に気づいたか。(ただの見過ぎ)

だ、ど、どうしよう。えーとえーとっ、な、何か話題…。
あーと、えぇぇ〜とぉ……。

「…そっ、その蛇、可愛いですね。」

あぁぁぁぁっ!!   やってしまった。  話題がないのに目があってしまいとっさに
思いついたこと口にして後から後悔するやつや。
やっちまった。


「鏑丸のことか」


名前あるんかい。


『へぇ〜、白くて綺麗。なんだか強そうですね!」

伊黒さんガン無視。


「私動物飼ったことないので羨ましいです!いーなぁ、すぐ近くに癒しがあるのって。」

伊黒さんガン無視再び。

「……蛇も可愛いけど、私はウサギとかも好きです!あの小さいモフモフの体。
 一度でいいから抱っこしてみたいなぁ…!」

「……無理に会話を続けようとするな。それに俺はウサギ派ではない。勘違いするなよ(?)」

無理に会話を続けてる…やっぱりそう聞こえてるのか…。
でも全然眠くならないし、夜が明けるまでこの沈黙に耐え続けるのは無理がある。
何よりずっと黙っていられるか……。

「…せめて、私が眠くなるまではちょっとくらい喋ってもいいですか?」

伊黒さんは私の目を見て、諦めないと悟ったのか、ちょっと呆れたように息を吐いた。

「勝手にすればいい」

よっしゃ。

それから私は1人でベラベラと喋りまくった。
自分のこと、家族のこと、友達のこと、豚の角煮の作り方、好きなこと、好きなもの、それから
豚の角煮の食べ方のコツ…。

私が喋っていると伊黒さんは「ふぅん」とか、「そうか」とか、相づちを打ってくれる。
それがなんだか心地良くて、いつのまにかウトウトしてくる。 

来たな、睡魔め……。

伊黒さんは私の会話が途切れ途切れになったので、眠くなってきたのだと察したのだろう。
しゃがんで頭を撫でてくれてた。子供扱いかよ。
一応高校生なのだが、しょせんは私もお子様というわけだ。
ポンポンと、頭を撫でる手が優しくって、あったかい。とても安心する。

私は眠りに落ちた。


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(…眠ったか)

さっきまで、隣でペラペラと喋っていたやつが、今は静かに寝息を立てている。

突然現れた、ただ血が他よりも珍しい、見た目はどこにでもいる普通の少女。
それなのに、お館様がこんなにも厳重に、柱の見張りをつけてまで守るなんて、優しい
お館様なら十分にあり得るが、やはり不思議でならない。

今日の見張りでこいつはたくさん自分について喋ったが、やっぱりただの普通の少女だ。
普通の家に生まれ、普通の親に育てられ、普通に成長し、普通に生きている。



俺の過去とは大違いだ。


きっとこいつが自分の過去を知れば、怯えて、怖がるだろう。
こんな人生とは無縁なのだから。
冷たくしていれば、絶対に懐かれたりしないだろう。

そうすれば、怖がって近づかなくなるはずだ。
もうあんな長々しい、興味もない話も、
聞かなくて済むだろう。





…………………。








まあ、今はまだ、聞いてやらなくもないが。





そっと、寝ている少女に自分の上着をかけて、暗い廊下へと歩いていく。

そろそろ朝日が昇る頃だろう。





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夢主
一度起きると二度寝できない体質だと思ってたけど、
わりと簡単に睡魔に襲われた。
お喋りは上手じゃないけど、わりとなんでも喋っちゃう。
豚の角煮は祖母の家に遊びにいくと絶対出てくる定番メニュー。

伊黒さん
素直になれない。(好き)
最後の部分は「えっ、もう朝日が昇る頃なの?」って思った人は
少なくないと思う。私も思った。
最後なんかシリアスに終わったけど、い、一応…夢小説って設定……だよ…?




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