第83話

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2021/04/21 06:17
「「「…父親…?」」」

「…。」




"父親"って…どういう事だ…

あなたさんは自分の父親は覚えてないんじゃ…?




「……やはり。自分の父親が何者か,分かっていたんですね。」

『…これ以上バカにしたら…殺す。』

「……」




エレン達とマーレが戦ってる。

考えてる暇はない…!




「……行こう!」

「おう!」

「うん!」

「…」

「あなたさん!ご無事で!」




『…。』

「……さぁ,どうぞ。ハンジ団長のところへ」












馬に乗って,ジークの拘留地まで走った。

体力がなくて体が重い。

意識も偶に遠のいてしまう…

ハンジ…リヴァイ…




『!…』




馬が疲れてる…

それはそうね。シガンシナ区から全力でここまで走ってきたんだもの…

私は一度止まって,馬に水を飲ませた。




『……ねぇ。ハンジとリヴァイは生きてるかしら…』




馬に語りかけた。

さっき,馬に乗る前にフロックを見た。

フロックの周りにハンジは居なかった。

イェレナ達から,"別の場所に移動させた"なんて情報はなかったし

きっとまだ拘留地付近のはず。

けど…フロックがあそこに居たって事は…

ハンジはもしかしたら…




『…』




30分くらい,ひたすら良く回らない頭で考えた。

とにかく,ハンジの元へ行かないと…







「誰だ。」








『!…』

「…立体起動装置を着けているという事は,兵士だね。名は?」

『…』




懐かしい…

久々に聞いたわね,この声…。





『…名は,あなた・アッカーマン。』

「…え…」

『…調査兵団の副兵士長で,あなたの部下よ。』

「っ…」



『久しぶり,ハンジ。』



「あなた…!」

『良かった…無事だったのね…』

「どうしてここに⁉︎アルミン達と一緒に居たんじゃなかったのかい⁉︎」

『貴女達を見つけにきたのよ…。アルミン達はエレンと協力体制になったわ。アルミンが言ったのよ。"エレンは自分達に危険を犯す程意味がある何かをしようとしている"って』

「…それに,皆が賛同したというのか…」

『…あの子達が決めた事だもの。私が何か言おうとするのはダメよ』

「…」

『…ねぇ。イェレナから,リヴァイが死んだって言われたわ』

「!…」

『リヴァイはどこ…⁉︎』

「あなた…!」

『リヴァイは生きてるの⁉︎無事なの⁉︎』

「落ち着くんだ!」

『っ…』

「……こっちに来てくれ。」




ハンジに案内されて行った森の中には,包帯でぐるぐる巻きになっているリヴァイがいた。





「……重症だ。かなりやられてる」

『…』

「彼が生きていたのは,アッカーマンだからだろうね__」




『っ!』




私はハンジの説明を最後まで聞かずに,リヴァイを抱き締めた。





「あなた…」

『……あった…かい…』

「…」

『…っ…よか…ッ…生きて…』

「っ…」

『うぅ……良かった…ぁ…』




……泣きながら,全力でリヴァイを抱き締めて

リヴァイの温もりを感じているあなたを見て

本当に大好きなんだな,と思った。

後ろから見ているからあなたの顔は見えないけど,愛する人を想う涙は

きっと美しいものなんだな。



「…まだ意識は戻ってないけど…」

『っ…ぁ…』

「ちゃんと生きてるよ。」

『ほんと…に…良かった…っ…!』

「…うん…」




きっと,その目で彼の死を目の当たりにしていたら

巨人の女王は終わっていただろうね。




「……あなた。君はまだ寝ているんだ」

『…』

「体力。さほど残っていないだろう?」

『…分かったわよ。』




リヴァイの隣で横になったあなたに,布をかけてあげた。





「…さて。何かないかな。」














「あの進路と速度から考えると,撤退船はあのままマーレに戻るようですね。地鳴らしの発動を見て,我々マーレ軍の生存を絶望視したのでしょうか…」

「いいや,賢明だ。これでいち早く本国に事態を知らせることができる。アレに踏み潰されるまで待つよりずっといい」

「…しかし,もうこれでは…」

「…」

「なす術がありません…。アレを止める策は何かお有りでしょうか?」

「……無い。」

「…」

「ただ,最後までみっともなくもがくまでだ。」




「あのー」




「「!」」

「ちょっと待ってぇ‼︎‼︎」

「「っ…」」

「とりあえず食べないで!こちらには何の武器もありません!」

「…」

「っ…」

「え,あっちに誰かいる?ご安心ください。あれは…人畜無害の死に損ないです。」




「…」




「…あ,そして。その隣で整った顔して寝てる美人が,皆さんご存知の巨人の女王です。」

「「!」」

「…という事は,貴様は調査兵団団長,ハンジ・ゾエか。」

「どーも」

「…そして,リヴァイ・アッカーマンとあなた・アッカーマン…いや,あなた・アットループというべきか」

「いや,アッカーマンで結構です。彼女の本名なので。」

「…」

「リヴァイー。起きてくれー」



「……ん…」



「おはよう。良く眠っていたね」

「……っ…」

「そう。君の隣には,君の愛する妻が一緒さ。サプライズも良いものだろう?」

「何故あなたがここに…?」

「いやー,たまたま見つけてね。私と君を見つけにきたらしい。今は体力回復の為に休んでもらってるよ。しばらくは一緒にいられる」

「…そうか…」



「…話は済みました?」



「あ,ごめん」

「「…」」

「…あんた達とは利害が一致する。テオ・マガト。ピーク・フィンガー」

「「「…」」」

「リヴァイ・アッカーマン。九つの巨人に引けを取らない強さを持つらしいが,そのザマでどうやって俺の弾を避けるつもりだ?」

「弾は避けられない。だが,このザマを敵の前にみすみす晒した。」

「…」

「撃つか,聞くか。あんた達次第だ。」

「………では撃つ前に聞こう。ジークを殺すと言ったが,奴は今何処に居る?」

「おそらくは…王家の血を利用する為に,エレンに取り囲まれている。いや…始祖の巨人だ。」

「巨人博士のハンジさんなら,何でも分かるようですね。我々マーレよりも。その始祖の巨人はご覧になられましたか?」

「とてつもなくデカくて,どうにもならなそうな事は分かってる。だから…」

「「…」」

「我々はやるしかないんだよ。"皆で力を合わせよう"ってヤツを。」

「…何だ,それは」

「マーレと我々。協力体制に取る。この馬鹿げたことを終わらせる。」



「…」



ハンジがマーレの2人と話している間

俺は,隣で寝ているあなたの頭を撫でた。

俺に逢いに来てくれたんだ…

"待ってろよ"って言ったのにな…

すまんな…。

お前との約束を守らなかったせいなのか,俺はこんなんになっちまった。

体が動かない。

これじゃあ…お前を守ることが難しい。

けど大丈夫だ。難しいだけ。

絶対に守る。

ありがとな,あなた。

逢いに来てくれて…




『……ん…』

「…あなた…」




「ん,起きた?」

「あぁ」

「「!…」」

『…いたた…』

「おはようあなた。」

「…あなた・アッカーマン」

「巨人の,女王…」

『………とりあえず。どういう状況なの,これ?』

「マーレ軍の人と交渉中。」

『?…』




『…なるほど。協力体制を取るのね』

「そうだ。君もそれで良いかい?」

『……分かったわ。』

「どうだい。巨人の女王様もそう言ってるよ?」

「…マガト隊長…」

「……良いだろう。だが,条件がある。」

「…」

「『…』」

「…イェレナを捕獲する。それが車力の巨人の力を貸す条件だ。」

「ほぉほぉ…」

『ちゃんと聞きなさいよ…』

「生きたまま,引き渡す。それでどうだ」

「良いよ。手をとろう」

「よし。」

「…あなた,アルミン達は?」

『…助けなきゃ。このままじゃアルミンやジャン達も地鳴らしを起こす人間になってしまう…』

「その闇から,引っ張り出さないといけない訳だ。部下を間違った道に進ませる訳にはいかない。上官としてね」

『……行きましょう。彼らのところへ。』

「うん。今からでも行こう。」

「我々はどうすれば?」

「リヴァイと居てくれ。今夜には戻ってくるよ」

『私も行くわ。』

「あなた…」

『大丈夫よ,リヴァイ。ちゃんと戻ってくるわ』

「…」

『隊長さん。ピーク。リヴァイを頼んだわよ』

「あぁ。」

「よし,行こうか。」

『えぇ』














「…」

『……何これ…』



私達はシガンシナ区に着いた。

既にコニーとアルミンには会い,事情や作戦を話した。

2人はちゃんと理解してくれて,私達に着いてきてくれると言ってくれた。

あとは…ミカサとジャン。




「…ここだね。」

『…あの窓の近くに居ると思うわ。』

「ちょっと高いねぇ…何か台ないかな…」




ハンジが台に乗って,窓を叩いた。




「…ジャン,私だ。」




『…反応した?』

「…良いや。我を見失ってる」

『…』

「ジャン。聞こえるか?外に来てくれ」

『……ハンジ,変わって』

「…うん」



『ジャン。』



「!」

『ジャン,そこに居るの?』

「あなたさん…」

『大丈夫…?』

「…分かりません…」



怯えてる…



『…』

「俺…行きたくないです…。このまま…普通に生きていたい…」

『………なら,予言してあげる。』

「?…」

『貴方は,必ず来るわ。』

「っ…」



……サシャとコニーとジャン。

貴方達3人が,私は大好きだった。

壁外調査の後に,私がリヴァイの胸を借りても気持ちが戻らなかったとき

彼らのふざけた姿を見ていると,自然と笑ってしまう。

可愛くて大好きな子達だった。

けど,サシャを失って…

貴方達だけは失いたくない。

せめて,助けになりたい。



『何故か教えてあげる。貴方は大勢の目が苦手なのよ。私1人で充分なの。』

「え…」

『私の為に来るのよ。いつかに言ったわよね?貴方にとって一番信頼できるのは,この私だって』

「…」

『なら,私の為に来て。』

「っ…」

『私の為に,生きて。』

「…あなたさん……」

『辛いなら,弱音を吐いても構わない。でも貴方は,私にしかその弱音を吐く姿を見せないわ。』

「どうして…分かるんですか…?」

『貴方にとって,私が必要だからよ。』

「⁉︎…」




『待ってるわ。必ず。来てくれるって,信じてる。』




「あなたさん…!」

『…待ってる。』






「……さすが。彼,来るよ。」

『…えぇ…』







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