第84話

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2021/08/03 11:26
「良く来たね,ジャン。」

「…」



「…。」



「ミカサから状況を聞いてたところだ。現場にいなくて申し訳ない。過酷な状況下で良くやったよ,君達は」

「…はい…」

「…あなたさん…」

『…ほらね。言ったでしょう?』

「…」

「リヴァイは…無事ではないが,生きてるよ。しばらくは戦えないけど…」

「「っ…」」

「そして…私達は車力の巨人ら,マーレ残党と手を組んだ。」

「「⁉︎…」」



「エレンを止める為だ。皆殺しは間違ってる。」



「…どうやって…止めるんですか…?」

「まず協力者を集める。何が出来るかは協力者次第だ。だが君達や九つの巨人の力,そしてあなたの王の力がなければ何も出来ない」

『…私は今,こうして動けているのが精一杯よ。容量はないわ。』

「「っ…」」

「従来の兵団組織は壊滅して…もう私は君達の上官でもない。」

『…』

「…そんな…」

「っ…」

「その上で聞くけど__」

「やります。」

「!」

「それが…私達やこの島を守る為であっても,エレンを止めたいんです」

「ミカサ…」

「……本当にエレンを止められたとして,どうするつもりですか?」

「「…」」

「エレンの始祖の力を維持できたとしても,あと4年の命なら…その後この島はどうなりますか…」

『…』

「その後の何十年後の未来も,ずっと…世界から向けられる憎悪が消えないなら…エレンを止める事は,この島を滅ぼすことになります」

「…私が思うに,マーレからすれば島に奇襲を仕掛けた途端,地鳴らし発動だ。少なくとも…今後しばらくはこの島に手を出せないと思う」

「"完全に島を滅ぼさないと,いつ世界が滅ぼされるか分からない"と…ヴィリー・ダイバーの演説以上に世界を焼き付けることになりますよ ⁉︎」

「それはもっともだろうが…いずれにしても,この想定話には猶予がある。島が滅ぶにしても,何年かは猶予が出来るはずだ」

「でも!そうやって可能性を探している内に時間が過ぎて,何一つ出来なかった!だからエレンは世界を消そうと__」



「虐殺はダメだ!これを肯定する理由があってたまるか‼︎‼︎」



「「っ…!」」

『…びっくりした』

「ごめん…大きな音出しちゃった…。」

「「…」」

「ジャンの言う通り。エレンがこうなったのは,私の不甲斐ない理想論のせいだ。それに…」

『…』

「こんなこと吠えておいて…逃げようとしていたんだよ…私は…」

「!」

「すべてを捨てて…すべてを忘れて生きようって…」

「「…」」

「…でも。私はまだ調査兵団の14代団長だ。人類の自由の為に心臓を捧げだ,仲間が見ている…気がする」

『…』

「大半は壁の外に人類がいるなんて,知らずに死んでいった。だけど…」

「…」

「この島だけに自由をもらたせればそれでいい…。」

『…。』

「そんなケチな事を言う仲間は,いないだろう?」

「「!…」」

「虐殺を止めることができるのは,今しかない。」

「っ…」

『……私は止める。誰に何と言われようと。例え1人でも。この命が途絶えても。』

「死んじゃダメですよ…」

『…私は言った。必ず地鳴らしを阻止する,と。もう…手遅れになる。なら私は,それを止めるだけ。』

「……ハンジさん。俺は…まだ調査兵団です。」

「!…」










「我々エルディア帝国は,100年以上に亘り世界に迫害され!巨人の脅威に晒され続けた!だが終わった!我々はもう自由だ!解放者,エレンと我らイェーガー派によって世界に勝利した!」



「なぁミカサ。お前もイェーガー派に加わって統治者に名乗り出るのか?」

「興味ない。」

「ジャンはすっかりその気らしいがな。」

「…」



「「「心臓を捧げよ‼︎‼︎」」」

「…。」

「帝国民の諸君!良く集まってくれた!これより,エルディア帝国に仇なす2人の義勇兵を処刑する!我々イェーガー派が世界を治めんとするエレンの意思を継ぎ!」

「「…」」

「このパラディ島の統治を宣言するものである!」

「「「ワァァァァァァァア‼︎‼︎‼︎」」」

「罪人の名はイェレナ!マーレに反期を翻し!エルディア帝国を支援した真の狙いは,始祖の力をジークの物とし!安楽死計画なるエルディア人の完全なる殲滅を実現させることにあった!」

「所詮は汚ぇマーレ人なんだ!」

「エレンがジークに勝利して計画は阻止されたが…罪人はジークの忠実な僕として良く働いた!」

「死ね売女!」

「さっさと地獄に落ちろ!」

「イェレナ!最後に言いたい事は ⁉︎ 」



「……まだ撃たないの?」



「撃て!」

「くたばれ大陸民!」

「撃て!」

「俺達ユミルの民には敵わない!」

「生き残るのはユミルの血を引くものだけだ!」

「撃て!」



「まだ撃たない!罪人の名はオニャンコポン!罪人は安楽死計画を知らず,エルディアのために良く働いた!だが,エルディア帝国に従って生きるくらいなら,死を選ぶと吐き捨てた!」

「…」

「気が変わったなら,今のうちに__」

「ハハハハッ!」

「…」

「俺はマーレから故郷を救うためにエルディアに力を貸した!それはあんた達のためでもあった!そして力を貸した結果…俺の故郷は踏み潰され,俺の家族は皆殺しだ!」

「「「っ…」」」

「で ⁉︎ 残ったのは出来の悪い,排外主義者のクズ野郎どもか⁉︎」

「…」

「お前らに媚びて生きるほどの価値はない!突然無差別に殺されることが,どれだけ理不尽なことか知ってるはずだろ ⁉︎ どうしてあんた達がわからないんだ⁉︎」

「…。」

「黙ってないで何とか言えよ!ジャン!」




「…」




カチャッ……





「ちょっと待て。」





「…何だよ,フロック…」

「……まだもう1人いる。」

「っ…」

「ジャン,連れてこい」

「……わかった。」



「もう1人って…」

「…我々の他に,裏切った義勇兵が?」

「いいや。義勇兵じゃない。」

「「?…」」




「…連れてきた。」




「「⁉︎」」

「…お前らの神様みたいなもんだろ。」





『離して!』





「…進んでください」

『っ…!』





「あなたさん…」

「待て…その人は罪人なんかじゃ!」

「いいや。罪人ではなく,"狂人"だ。」

「「は…?」」



「皆の者!彼女に見覚えがある人間は居るだろう!巨人の女王の力を持つ,あなた・アッカーマンだ!」

「その人は…」

「その人は…何か罪を犯したのか…?」

「そんな…この人は凄く良い人だったのに…!」

「…それは,全部嘘だ!彼女は巨人の女王として,我々を苦しめる1人である!今ここで殺さなければ,また巨人の力でエルディア帝国が壊されるか分からない!」

『何を言ってるのフロック!私はそんなことしない!』

「…なら。貴女はどうして,昨日ジャンに捕まえられたんですか?」

『っ…』

「そもそも,どうしてジャンと接触しようとしたんです?ジャンを貴女の味方に戻すためですよね?貴女はその上等な説得力で,ジャンを引っくるめようとしたんでしょう⁉︎」

『…違う…そんなことしてないわ!』

「何が違うんですか!違うと言うなら,今ここで証明して下さいよ!」

『…証明って…』

「…リヴァイ兵長は,どうしたんです?」

『っ…』

「雷槍に吹き飛ばされ,重傷のはずです。傍に居なくて良いんですか?」

『…こんなの間違ってる…間違ってるから,正すために!』

「愛する人を捨ててでも?」

『っ…』

「それが,貴女の正義ですか?貴女は,この場にいる国民にも結婚式で祝福してもらったんでしょう?」

『…』

「…兵長よりも,ジャンに媚び売りに来たんですか。」

『っ…!』

「…女に騙されるのは,男にとって格好付かないものですよ」

『…』

「……ジャン。良いぞ」



「…分かった。」



『!…』

「クソ…」

「…」

『ジャン!目を覚まして!貴方はここにいるべきじゃないわ!』

「…もう…俺はいいんです…」

『良くないわよ!私に話してくれたじゃない!調査兵団に入った理由を!貴方は,死んだ親友のために危険な仕事を選んだんでしょ⁉︎』

「っ…」

『それがこのザマじゃ…意味がないじゃない…』

「…」



カチャッ……



バン,バン,バン!……バンッ‼︎‼︎




「ひっ…⁉︎」

「っ…」




「…」

『…ぁ…』




「おい…」

「…しまった…外した…。」

『…ジャン…』

「……俺は,貴女を信じるのが心地良いです。」

『っ…』




何だ…後ろから物音が…?




「⁉︎」

「フロック!」




「車力の巨人だァ‼︎‼︎」

「逃げたぞ!」

「ジャンとあなたさんが食われた!」

「イェレナもだ!」

「追え!」

「装備だ!」

「怪我人を運べ!」

「急げ!」



「クソ…ミカサはどこだ⁉︎すぐにヤツを…」



…あれ…



「ミカサは……どこだ?」









「オェェ…」

「ゲホっ…」



『ぷはっ…口開けなくて良かった…』

「あなたさん…すみません…腕,強く握りすぎちゃって…」

『良いのよ。演技上手かったわね』

「いえ…」

「車力は何ヶ月も巨人になったままでいられるんでしょ?歯磨きとかしないの?」

『こらハンジ。失礼でしょ,女性に対して。』

「えー,そうかな?」

『貴女みたいに1週間もお風呂に入らないような子じゃないのよ,ピークは』

「はいはーい」



「いつの間に…マーレと手を組んだ?」

「昨晩だ。」

「あなたさんまで…」

「作戦に何かあったらヤベェからな。一応捕まった態で奴らに隙を作って、お前らを攫ったんだ」

「良いのか…?お前…イェーガー派にいれば地位は安泰のはずなのに…」

「あぁ…。もうあのまま…耳を塞いで部屋に籠もっていたかった。でも…それじゃあ骨の燃えカスが,俺を許してくれねぇんだよ…」

「?…」

「それに…」



「1週間もお風呂に入らなかったことあるんですか」

『巨人の研究に没頭し過ぎてね。流石にリヴァイがキレて,強引に服を着たまま湯船にブチ込んだ事もあったわ』

「…」

『引かれてるわよ,ハンジ』

「えぇー」

『ふふっ!』




「……俺は,手が届かない相手を気にかけたバカ野郎だ。そんな俺ができる事は,その人を見守る事。」

「?…」

「まだ…見守り足りねぇ…。危なっかしい人だから…」

「…ジャン…言ってる意味が分からないけど…ありがとう。」

「…良いから,体洗えって」

「おわっ!」



「何で…私まで…」

「君を確保することが,車力の力を借りる条件だったんだ。」

「…」

「生きたまま引き渡せ,って…元帥殿が御所望だ。」

「……顔色が悪いな,イェレナ」

「…まぁ…」




「…おかえり,あなた」

『リヴァイ…』




俺を見つけて,颯爽とやってきた。





『大丈夫?体は動く?』

「…ちょっとだけな…」

『…辛そうね』

「…まぁ,あまり不快には思ってない。だが…」

『?…』




俺は,辛うじて動く手であなたを引き寄せて

顔に巻かれた包帯ごしにキスをした。




『っ…』

「……お前にちゃんとキス出来ないのが,不満だな」

『…クスッ…仕方ないことよ。』

「…おう」




「あなたー!」




『何,ハンジ?』

「アルミン達が来たよ!」




「ハンジさーん!」

「あなたさーん!」





「ライナー達は回収できたかい?」

「はい。女型も連れてきましたけど」

「…へぇ。」



「…どうも」



「…それじゃあ,話をしようか。」

「「「はい。」」」








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