半年後。
『え?』
部下の報告を受けて,私は気が強張った。
「マーレの人間を…捕らえたそうです」
『誰が?』
「団長達がです。リヴァイ兵士長も一緒です!」
『わかったわ。直ぐに行く』
「はい!」
・
・
・
「おい,吐け。お前は何故ここに来た?」
「っ…」
「リヴァイ,怖がらせても仕方ないじゃないか」
「チッ…」
「こう言うのはね…一発かませて吐かせた方が早いのさ!」
「ヒィ…!」
「お前も状況変わってねぇじゃねぇか。」
「あっはっは!」
『笑う事じゃないでしょ』
「あ,あなたー!」
「悪いな」
『いいえ,大丈夫よ。彼がマーレ人?』
「嗚呼。他の船と一緒に流れてた船に乗っていた」
『他の船…ね。』
「さて。君が乗ってきた船に居た人はもう居ない。」
「!」
「こちらで全員拘束させてもらった。あなたに怒られちゃ,重い脅しは掛けられないが…」
「今ここで吐いちまった方が,身のためだな」
「っ……」
『…』
「意地でも口を割らない気かい?」
「…」
『……マーレの人間なら,巨人の存在を知っているでしょう?』
「っ…」
『私は,誰かわかる?』
「……あなた・アッカーマン…。エルディアで存在する3人のアッカーマンのうちの1人で……アットループの血を受け継ぐ者…」
『そうよ。私は,巨人の女王。よろしくね』
「よろしくなんて…誰がするか!」
『貴方の仲間も,そのうちここに来るわ。その時の交渉人として,協力してもらうわね』
「っ…」
『信じて。』
「?…」
『私達は,確かに悪魔の民族かもしれない。それでも,私達は貴方達以上に戦ってる』
「…」
『色んなものを犠牲にし,多くの命を捨ててきた。』
「…」
『私達は,"ただの悪魔"じゃない』
「…そうか。」
『………名前は?』
「…ニコロだ。」
『そう。』
「さすがあなただね。あのマーレ人君を説得しちゃった」
『言い方を変えれば良いのよ。思考を読むの』
「彼の考えを,利用したって訳だ」
『嵌めた訳じゃないわよ』
「だろうね。」
『彼は心の綺麗な人間よ。私達とは,程遠いわ…』
「……そうだね」
『………で。作戦を考えるんでしょ?』
「嗚呼。どうやってマーレを向かい受けようか…」
『…』
私達は,マーレの本船をどうやって向かいうつか
そして,彼らと戦うべきか,交渉して協力すべきか…。
・
・
・
「さて。マーレの本船が来たら,エレン,君が岩岸へ運ぶんだ。巨人化してね」
「わかりました」
「エレンの側には,あなたがいる事。何かあったとしても,君ならエレンを止められる」
『わかったわ』
「じゃあ,マーレの彼を利用して,引きつけようか。」
・
・
・
『……さて。エレン,準備は良い?』
「はい。」
「な⁉︎」
「巨人⁉︎」
「ヴゥゥゥ…」
『そのまま運んで。北へ進んで』
「っ…」
「何なんだ…?」
「マーレの皆さーん!こんにちはぁー!パラディ島へようこそ!」
「っ⁉︎」
「…」
「私はハンジ。遥々海を渡ってきた皆様方を,お迎えするものですー!ささ!こちらでお茶でも楽しんでって下さい!」
「…」
「あ!先にお越しのお連れ様も,既に仲良しでーす!」
「ヒィ…!」
「だよねー?ニコロくーん!」
「隊長!私に構わず,この悪魔共を撃って下さい!」
「えぇ⁉︎何を言い出すんだい,ニコロくーん⁉︎」
「隊長ー‼︎‼︎」
「お前の三文芝居に付き合う気は無ぇってよ」
「ニコロ…。良く聞け,悪魔共!マーレは汚れた血や肉カスなど持ち合わせていない!汚れた人間と豚の小便を啜る様な真似はしない!」
「アァ"ー!良いのかなー,そんな事言って⁉︎後ろの巨人が見えないのかなー?」
「っ⁉︎」
「クッ…悪の力などに屈するものか!これがマーレの挨拶だ!」
「ヒィ!」
バンッ!
「…え…」
「「「…」」」
「な,何のつもりだ,イェレナ⁉︎」
「武器を捨てるんだ。」
『…あら,仲間割れかしら?』
「ウゥ…」
『…』
私は彼に,手を付けた。
『…どう思う?』
"本当に,仲間割れでしょうか?"
『…』
"最初から…その気があった様に見えます"
『…確かに。』
「ハンジさん。お招きいただき,光栄です。」
「ぇ…」
「お茶,しましょう」
「ぁ…あぁ…。」
「………会いたかったよ,エレン。」
隊長の脳幹を撃った人は,私達の方を向いた。
そして,私を見て,手を広げた。
目を,輝かせて…。
「……素晴らしい…。美しい女王様だ…」
『…』
・
・
・
「ほぉ……へぇ…こうやって何発も撃てる訳だ」
「それは,マーレ兵の基本装備です。マーレ兵は,一団辺り約2万人で構成され,総員50師団,100万人になります」
「…」
「それら陸軍に加え,21船の戦艦から3つの艦隊の融資,その他新兵器の進歩も目覚ましく,航空戦力にも力を注いでいます」
「航空…?」
「チッ…」
ガンッ…
「(ビビってんじゃねぇよ,舐められるだろうが)」
「(わかってるって…)」
「要するに,海や壁を越え,敵が空から現れる移動兵器の事です」
「えぇ⁉︎空から来るのぉ⁉︎」
「おい」
「そ…そんなけの力を持つマーレ様が…少なくとも1年間…まともに攻めてこなかった理由って…何?」
「主に理由は2つ。1つは,島に放った無垢の巨人が,最新兵の兵器を使っても,未だに上陸困難な障害である事」
「…」
「マーレがエルディア人を,壁の中に幽閉する為の政策でしたが,逆に心眼からエルディアを守る存在となっていたのです」
「…らしいな。そいつは笑える」
「しかし,もうすぐ夜が明け,巨人が活動する頃ですよね。今我々がこうして壁の外でのんびりお茶出来るという事は…」
「っ…」
「島の巨人を全て殺してしまった。と,いう事でしょうか?」
「ぉ…」
「だったらどうする?なんとかしてマーレに伝えるか?」
「……いや,素晴らしい…期待以上だ」
「…2つ目の理由は?」
「現在マーレは,複数の国と戦争状態であり,パラディ島どころでは無いという訳です」
「「…」」
「貴方がたは,我々が誇るマーレ戦士隊を撃ち負かし,更に超大型巨人,女型の巨人といった死力兵器を奪った」
「…」
「マーレは敵の多い国ですので,所外国は瞬く間に団結し,戦争の木札が切られたのです」
「すると貴方がたは,マーレに恨みを持つ某国の民であり,マーレ軍に潜入する諜報員みたいなものなのかな」
「「!…」」
「お,当たり⁉︎やはりマーレに背くくらいなら,その動機と後ろ沙汰がないとねぇ」
「諜報などと…呼べる様な代物ではありません。」
「…」
「マーレに故郷を奪われ…兵士として調教された我々は,とても非力で,あの大国に争う気概は,失われつつありました」
「「…」」
「彼に…導かれるまでは…。」
「…」
「マーレや世界の人々が,悪魔と呼んで恐れられる巨人。私には全く別のものに見えた…。神です。無力な私達に希望を見せてくれました」
「…」
「「…」」
「私達は,ジーク・イェーガーの名誉を受けて,上官を撃った……反マーレ義勇兵です。その目的は,全エルディア人の解放。」
「っ…」
『……獣の巨人ね。』
「「!」」
「あなた…」
「やぁ,あなた」
「アットループ様。そのジークより,手紙を預かっています」
「中の確認は?」
「済ませてあります」
『…どうも。読ませてもらっても?』
「どうぞ。」
『ありがとう。』
我が巨人の女王様。
獣の巨人,ジーク・イェーガーより
パラディ島に義勇兵を配属させてもらった。
エルディア人…エレンや貴女,リヴァイ達を救う為為,協力しましょう
全ては,貴女様,女王陛下の為に…。
『…』
「ジーク戦士長は,貴女を心より慕っています。」
『そのようね。まぁ,巨人という立場での協力体制の提案という手紙ね』
「そうか。」
『どうするの。王都への連絡は』
「するよ。会議もすると思う」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!