私は嬉しかった。
翼が…あの翼がまた私の前に現れてくれたことに。
そして相手投手が構える。
パンッ!!
相手投手からボールが離れ、140キロはあるであろうストレートがキャッチャーミットに納まった。
流石と言うべきかなんというか、やっぱり凄いなぁ翼は…
相手投手が再び構える。
そして相手投手の手からボールが離れる。
私は祈るように手を握っていた。
瞬間
カァァンツッッ…!!
と威勢の良い音とともにボールは空高く舞っていた
相手投手の投げた球種はチェンジアップだった、翼はそれをよんでいるようだった。
ボールは空の彼方に舞い上がり、ホームランゾーンの芝生へと落ちていった。
嬉しそうにニヤける翼に相手投手の社会人が悔しそうにしている。
翼の草野球チームのベンチからは、おぉぉ!といった声が上がっていた
得点板を見れば最終回、翼のホームランで逆転勝利だった。
私は小学生の頃のように翼のプレイに魅了されていた。
嬉しそうにホームベースを踏む翼に味方チームの社会人がかけよる
などといった声が翼に集まる、それは私も確かに思う。
やっぱり翼はすごい選手だ…
でも私にとって翼はそれだけじゃない、私に明るい生き方を、強い生き方を教えてくれた
私にだってそういう生き方ができるのだと教えてくれた大切な人だから…
そこからは試合終了の握手をしてグラウンドの片付けをし、社会人の人達と仲良さそうに話していた。
私が近くでここの草野球を見たのは2ヶ月前だ、少なくともその時にはいなかったし、もし帰ってきたなら連絡くらいするだろう…
つまり、最近帰ってきたばかりでこの馴染み様なのだ…
すると話を終えたのか、翼がやってくる
その瞬間嬉しさや今までの寂しさ、たくさんの気持ちがごちゃ混ぜになって溢れだそうとしていた…
どれだけ待ったと思ってんの…
パァン!
私は翼にビンタをくらわせて早歩きで帰っていた
草野球チームの人達が翼を笑っている声が聞こえた
それでも帰ってきたんだよね
私は翼には聞こえないであろう声でそういうと足早にお母さんの待つ車に戻ったのだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!