あれから2週間ほど経っただろうか。
最初こそいろいろなことがあったものの、今では幹部たちとも仲良くやっている。
ただ...
毎日続く書類の数々。
まぁ、勝手にグルッペンの書類やら鬱の書類やらを手伝っている私が悪いのだが。
それに、a国にいた時は今のように書類をやらされていたせいで、なぜか隈ができないという耐性がついてしまっていた。
時計を見ると、とうに食事の時間は過ぎかけていて。
あー、今日は食事抜きかな...
そんなことを思っていた。
〈ピーーー〉
そんな中、無線の音が部屋に鳴り響く。
その無線から聞こえてきたのは
〈メイドさん、食事の時間めぅよ~〉
と言うオスマンの声だった。
〈わかっためぅ~〉
〈ピーーー〉
ずっと同じ姿勢で書類をやっていたせいか、腕が痺れてくる。
でも気にしている時間などない。
これから全員分の服の洗濯、食器洗いに行かなきゃ...
調度いいところで書類が終わると、急いで食堂へ向かう。
食堂の扉を開けるとキッチンに早歩きで行き、食器を洗おうとする。
でもーーまた無線がかかってきた。
〈ピーーー〉
〈ゾムが訓練所で暴走しとる!! 誰か応戦に来てくれ!〉
〈ピーーー〉
応戦に行かなきゃ。
それはわかっているのに、どこかで嫌がっている自分がいた。
まだ書類が...洗濯だって...
...って、なに考えてるんだろう。
_________
訓練所に着くと、そこには幹部達がゾムと戦っている姿があった。
...あぁ、そうだった。
ゾムは『我々だの脅威』、だったんだ。
ナイフを二本...いや、忍ばせているのを含めて4本を振り回して暴走するゾム。
でもなんで暴走...?
毒...
そういうことね...
ボーッとする頭で考える。
ろくに睡眠も食事もとっていないせいか思考回路が遮断されそうだ。
そんな時。
ショッピ君が声をあげた。
気がつけば幹部達のところからゾムが消えていて。
上を見上げれば、私にナイフを振り落とすゾムがいた。
避けようとする。
...あれ?
もうダメだ。
そう思い、目を瞑った時。
ドンッと体に衝撃が走った。
思わず目を開ければ
血を流す鬱がいた。
まさか...庇って...?
覆い被さるように見下ろす鬱から垂れる血が、顔にかかった。
顔にかかった血は垂れて口へと入る。
鉄のような味が口のなかで広がる。
呆然として鬱を見ると、
鬱の上から心臓めがけてナイフを振り落とすゾムが見えた。
ザーーーーーーー
また、砂嵐が頭のなかで吹きあられる。
_______
そう言って笑う...
彼は...確か...
そう叫ぶ彼女はたしか...
私だ。
私を庇って血を流す彼の血が口に入る。
ーーそうだ。
決めたじゃないか。
もう同じ過ちは繰り返させない、と
_______
鬱を投げ飛ばし、太股に潜ませてあったナイフを取り出しゾムのナイフを弾く。
...やばい、正気を失いそう。
でもーー
真っ正面から向かってくるゾム。
正気を失いそうな意識のなか。
にやっと笑い、私もゾムに向かっていく。
疲れはてた体を無理に動かし、ゾムのナイフを弾いてはナイフを当てようとする。
が、なかなか勝負はつかない。
...それに、スタミナもゾムのほうが上手だったようで。
避けようとするが避けきれずに腕を軽く切られてしまう。
いつもの疲れも出てきて、だんだん押されてきた。
...無能。
わたしのほうをみながら言うゾムに正気は無くて。
...でもわかっていても。
メイドとしてのことはやっているつもりだ。
...無能なんて、言うなよ
最後の力を振り絞ってゾムに抱きつき、身動きを封じる。
もちろんゾムも抵抗するわけで。
ゾムは手首をうまく使って私の脇腹を刺そうとしている。
とうとうバランスを崩して私が押し倒すような体制になり身動きを封じているが、やはりゾムの力には負けてしまった。
今度は逆の体制にされてしまい、首を絞められる。
殺すならジワジワって...サイコパスかよ...
あまりの苦しさに顔を歪める。
もう少しで死ぬという時、いつの間にかゾムの後ろにまわっていたコネシマがゾムを気絶させた。
だが、それは私も同じだったようで。
ゾムが気絶する寸前、私も酸欠で気絶してしまったのだった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。