「あと一年」
あのときからどれだけたったんだろう。
私はもうすぐ死ぬ。明日、死んでしまう。
最期に君に会いたい。
「奈那は一番大事な人に絶対出会える。無理に探さないでいいよ。焦らず。ゆっくりと」
病で死んでしまった父親の最期の言葉。
最初は諦めてたよ
最初は……
余命一年。そう言われても悲しくなかった。
母親は泣き、弟は怒って。
なんとも思われてないだろうクラスメイトからは「お大事に」
「死なないでほしい」
「悲しい」
菜穗ちゃんからは「必ず見つけるから」「待ってて」
ずっと死ぬ前提で会話してた。
「治ったら遊園地行こう!」
「約束」
もう無理。なんて思えなくなっちゃったよ
貴方に出会えたおかげで
死にたいなんて思わなくなった。
あのときから……
病院。
私は遺伝型の病気だ。父さんと一緒。
私にとってこの一年は最期の一年。
いつも優しくて怖い菜穗ちゃんも余命がわかってから優しい。怖すぎるほどに優しい。
カーテンを作り直すのは子供のやることじゃない。
新しいのを買えばいい。
みんなそう思うと思う。
でも、違う。そんな贅沢はしない。
治らない わかっていても治そうとしてくれて。そういう菜穗ちゃんのお墨付きで最新の手術だって受けている。これにはそうとうなお金が必要で。お金に余裕はあるけど自分にかかるお金は出来るだけ少なくしたい。
だから死ぬまでにできることをして、役に立ちたい。趣味だし
何しようかな
絶対時間かかるもんね
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!