なにか暖かいものに包まれている心地よさの中、
私は目を覚ました。
今度は記憶もある。千里との記憶も。
今いる場所だってちゃんと覚えている。
私は家の裏山で目が覚めたらしい。
━━━隣にはもう千里はいない。
涙が溢れてくるのをこらえ、
私は家へと向かった。
そんな、無性な衝動に襲われ、
私は走った。
千里がいない…。
その事実は変わることはない。
でも千里は言っていた。
《魂は繋がっている。》と。
もし、そんなことがあるのならば……。
私は千里とのことをしっかりと
覚えておかないといけない。
私は何かを失った悲しみのなか、
新たな希望を見つけていた。
千里が日記などを書くときに使っていたと
思われるノートに、
私は千里と過ごした日々のことを
しっかりと書き始めた。
その日の夜もなにか
暖かいものに包まれている感じがして
とても心地がよかった。
千里のノートを開いてみると、
私が書いた…?と思われる文字で
埋め尽くされていた。
あれ………。
私…何か大切なことを忘れている気がする。
忘れてはいけないと…強く思っていたこと…
このノートはなに?
千里と会えるはずはないのに…。
新しい思い出が私の字によって
記されている…。
私は何を忘れてるの……?
━━━2年後。大学生になって初めての春
高2になる春からもう2年。
大学生になっても私は
なんで千里のノートに妄想なんか書いたのか…
思い出せずにいる。
すごく大切なことだったはずなのに
何かに記憶を隠されているような…
もやがかかってどうしても思い出せない。
大学生活の四年間、
どんなに楽しいことがあっても
私はずっと何か探している、
そんな不思議な気分から抜け出せなかった。
本を読んでると不思議な気分になることがある。
楽しかったり悲しかったり…
私が千里のことを考えてる時の気持ちと
似ていたこともあり、
本に興味が湧いてくるようになった。
本に関わっていればなんだか
抜けている記憶が思い出せるかもしれない、と。
そう思えてくる。
不思議な子…。
私の心のなかで、また何かが始まるような……
そんな胸騒ぎがしていた。
その男の子は
いたずらっ子のような笑顔で嬉しそうに
笑っていた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。