第7話

「再び。」
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2018/03/27 05:14
なる
千里……
なにか暖かいものに包まれている心地よさの中、
私は目を覚ました。
今度は記憶もある。千里との記憶も。
今いる場所だってちゃんと覚えている。
私は家の裏山で目が覚めたらしい。

━━━隣にはもう千里はいない。
涙が溢れてくるのをこらえ、
私は家へと向かった。
なる
千里との思い出を余すことなく
書き記したい!!
そんな、無性な衝動に襲われ、
私は走った。
なるのお母さん
あら、なる。
おかえりなさい。
お友達に迷惑はかけなかった?
なる
ただいまー!
ごめん!お母さん。後で話すね。
ちょっと急いでるっ
なるのお母さん
あらあら、あの子…。
何か吹っ切れたのかしら…。
(千里くん…お姉ちゃんは元気よ。
安心してね…。欲を言うなら私は
なると千里くんの二人の成長を
見ていたかったわ…。)
千里がいない…。
その事実は変わることはない。
        でも千里は言っていた。
《魂は繋がっている。》と。
もし、そんなことがあるのならば……。

私は千里とのことをしっかりと
覚えておかないといけない。

私は何かを失った悲しみのなか、
新たな希望を見つけていた。
なる
これだっ千里が使っていたノート。
これに書いておこう。
千里が日記などを書くときに使っていたと
思われるノートに、
私は千里と過ごした日々のことを
しっかりと書き始めた。
なるのお母さん
なるーーもう夜よー。
ご飯の準備ができたわよ……って
寝てるの?
あらあら。千里くんのノートを
抱きしめちゃって…。
また千里くんがなるを笑顔に
してくれたのかしら。
その日の夜もなにか
暖かいものに包まれている感じがして
とても心地がよかった。
なるのお母さん
なるー朝よ!
なる
んー。朝かー。
おはようお母さん。
なるのお母さん
おはよう!
あなた、
朝早くに帰って来たかと思えば
千里くんのノートを抱き締めて
寝てたのよ。
何があったのかしらね。
なる
千里のノート?なんで私が…?
なるのお母さん
あら…忘れちゃったの?
本格的にバカに
なってきたのかしらね…
ほら、さっさと一階にきなさいね。
朝ご飯よ。
千里のノートを開いてみると、
私が書いた…?と思われる文字で
埋め尽くされていた。

なる
なんで…
こんなに千里と過ごした日々のことが
書いてあるんだろ?

とうとう…妄想でも始めちゃった?
あれ………。
私…何か大切なことを忘れている気がする。

忘れてはいけないと…強く思っていたこと…

このノートはなに?
千里と会えるはずはないのに…。
新しい思い出が私の字によって
記されている…。

私は何を忘れてるの……?
━━━2年後。大学生になって初めての春
美琴
やっほー!なる!
忘れ物はしてない?
私は不安でしかたがなかった…。
なる
美琴、忘れっぽいもんね。笑
私は大丈夫です!
ほら!
美琴
ほんとだ!さすがなる~。
……てか、聞いて良いのかな?
なんかさ、高2の時から
その、古い日記帳みたいなの
ずっと持ってるじゃん?
なんなの?
ずっときになってて…。
なる
全然!
聞いてくれて良かったのに~!
これは…私でもよくわからないの…
大切な人の日記帳なんだけど
なんだかもっと大切なことを
記憶してるノートな気がして……。
美琴
あぁ!あの高2の春に
記憶が混乱して無意識のうちに
亡くなった弟くんの日記帳に
変なことを自分で書いてたっていう
あんときのか!
なる
そうそう!
いつか思い出せるかもだから
持っておこうと思ってて。
美琴
そっそっか!
それは大切だね!
高2になる春からもう2年。
大学生になっても私は
なんで千里のノートに妄想なんか書いたのか…
思い出せずにいる。

すごく大切なことだったはずなのに
何かに記憶を隠されているような…
もやがかかってどうしても思い出せない。
なる
いつか…必ず、思い出したいな。
大学生活の四年間、
どんなに楽しいことがあっても
私はずっと何か探している、
そんな不思議な気分から抜け出せなかった。
なるのお母さん
なる~~~!!
就職おめでとう!!
もう、大人だなんてー。
お母さん感動よ。
大学四年生になって突然
出版社で働きたいって
言い出したときはおどろいたけど
今、出張してるお父さんも
応援してるって言ってたから!
頑張ってね!
なる
うん!ありがとう!
本を読んでると不思議な気分になることがある。
楽しかったり悲しかったり…
私が千里のことを考えてる時の気持ちと
似ていたこともあり、
本に興味が湧いてくるようになった。

本に関わっていればなんだか
抜けている記憶が思い出せるかもしれない、と。
そう思えてくる。
出版社の社員
それでは!本日より赤石なるさんに
この職場で働いてもらうことに
なりました!
出版社の社員
早速で悪いんだけど
今、新人の子の育成にも
力をいれていてね!
高校生の男の子の作品に
アドバイスとかまぁその男の子の
面倒を見てくれないかな?
なる
分かりました!
出版社の社員
もうそろそろ彼が来る時間だから
待合室で待機してて!
なる
分かりました!
出版社の社員
ちょっと不思議な子なんだけど
作品は面白いし、
今、期待の新人だから
よろしく頼むよ!
なる
はい!
不思議な子…。

私の心のなかで、また何かが始まるような……
そんな胸騒ぎがしていた。
ちさと
こんにちは。
松井千里(まつい ちさと)です。
なる
今回相談にのらせていだく、
赤石なるです。
よろしくね。
ちさと
お姉さんが……やっと会えた…。
なる
今、なんと?
ちさと
いえ!
千の里って書いてちさとです!
よろしくお願いします!
その男の子は
いたずらっ子のような笑顔で嬉しそうに
笑っていた。

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