ぐっすり眠れたらしく、
いつもは怖い夢を見ていたが今日は
なにも見ることはなかった。
今まで記憶喪失や家族のことを何だかんだで
あやふやにしてきたまま来てしまった。
千里と出会ってから何日たったのか、
ここがどういう場所なのか。
千里と一緒にいる時間が心地よすぎて
考えないようにしていた現実に
目を向けなければならない。
私は急いで着替え、一階へと降りた。
千里は私用のパンを焼いてくれ、
二人で朝ごはんを食べ始めた。
私は千里にそう言い放ち、
千里と出会ったあの丘へ走り始めた。
私は叫び疲れて、
丘の上の木の下に座り込んだ。
千里と出会った場所。
涙がとまらない。今まで泣いてなかった分、
どんどん、涙が溢れてくる。
手がなにか固いものに触れたことが分かった。
失礼かと思いながらもスマホを開き、
名前を見てみると
そこには赤石なると書いてあった。
なる…?千里がつけてくれた名前…
だけどもし、これが私の携帯で
本名が赤石なるだったら、
なんで千里は私の本当の名前を知ってたの?
私には千里に聞きたいことがたくさんあるんだ。
はぐらかされても聞かなければならない真実。
私は丘をくだろうと立ち上がった。
千里は驚いた顔をしていたが
すぐに口を開いた。
そう言うと千里はゆっくりと話始めた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!